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71・夜の訪れ①

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「今からはもう、15年ほども前のことになるんだわ……」

 12で後宮を出た翔兄シァンシォンはもうじき27になる。
 翔兄が後宮を出る前より、出た後の方がずっと長い。
 小美シャオメイは24。二人ともすっかり大人になってしまった。
 翔兄が自分で言っていた通り、後宮を出たと言っても、翔兄は度々後宮へと顔を出した。
 両陛下方を交えて、家族で夕餉を囲むこともあったほどだ。
 だけどそれも、2年遅れて律兄ルゥシォンが後宮を出て以降は特に段々と足が遠のいていって。
 今ではもう半年以上、顔も見られていない。

「翔兄……」

 待っていて欲しいというのは何だったのか。迎えに来る・・・・・と言っていたのは、いったい。
 小美にはもうわからなかった。
 翔兄と会わないうちに、すっかり大人となった体。
 翔兄のよく知っていた、幼い小美の姿など今は遠く。
 それでも小美は今だ、後宮ここを出る術を持たないままなのだ。
 出たいと申し出ても、困った顔をされるばかりで叶う様子がない。
 いったい、いつまで。
 思えば思う程、意識は暗く淀んでいくようだった。
 皇帝陛下の訪いなどはなく、ならばこそ此処にいる意味もなく。おまけに。
 思い出す。
 小美が大人になるきっかけとなった光景。
 全く似合いに見えた、翔兄と朱貴妃。
 小美は翔兄が『好き』だった。
 だけどその『好き』が恋だったのだと知ったのは、翔兄の隣に自分以外の誰かが並ぶ姿を見たからだ。
 羨ましいと思って、嫌だと思った。
 翔兄の横に並ぶのは自分でなければ、そう願った。
 なんて浅ましくも自分勝手な。
 それで姿ばかり大人になっても、自分が変わったようには小美にはちっとも思えない。
 まるで足りない自分を突きつけられるだけ。
 その上、最近ではまるで翔兄の代わりのよう、リァンを受け入れ始めている。
 翔兄に見た目の似ている涼のことを、少し前までは疎ましく思っていたはずなのに。

「妾は……翔兄の見た目が好きなわけじゃないわ……」

 翔兄を美しいと思うし、勿論、見目だって気に入っている。
 けれど同じであればそれでいいわけがなく、なのに涼に気を許し始めている自分を自覚せざるを得なくて、そんな涼さえ近頃、昼間はそばにいないのだ。
 そしてそれを寂しいと思っている。
 まるで15年前と同じように。否。

「それでも夜に……涼は、訪れるから……」

 全く同じというわけでは、ないのかしらね。
 小美にはよくわからなかった。ただ。
 すっかり寝支度を整えた、小美一人っきりの寝所へと、誰かが近づいてくるのがわかる。
 慣れた気配。
 もはや間違えようもないそれ。

「明妃様」

 やがて微かにかけられた呼びかけに、小美は微かに返事を返して……――こうして、今日も。寝所へと訪れる涼を、どこか待ち望んでいた自分を、小美はいつからか認めざるを得なくなっているのだった。
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