73 / 96
71・夜の訪れ①
しおりを挟む「今からはもう、15年ほども前のことになるんだわ……」
12で後宮を出た翔兄はもうじき27になる。
翔兄が後宮を出る前より、出た後の方がずっと長い。
小美は24。二人ともすっかり大人になってしまった。
翔兄が自分で言っていた通り、後宮を出たと言っても、翔兄は度々後宮へと顔を出した。
両陛下方を交えて、家族で夕餉を囲むこともあったほどだ。
だけどそれも、2年遅れて律兄が後宮を出て以降は特に段々と足が遠のいていって。
今ではもう半年以上、顔も見られていない。
「翔兄……」
待っていて欲しいというのは何だったのか。迎えに来ると言っていたのは、いったい。
小美にはもうわからなかった。
翔兄と会わないうちに、すっかり大人となった体。
翔兄のよく知っていた、幼い小美の姿など今は遠く。
それでも小美は今だ、後宮を出る術を持たないままなのだ。
出たいと申し出ても、困った顔をされるばかりで叶う様子がない。
いったい、いつまで。
思えば思う程、意識は暗く淀んでいくようだった。
皇帝陛下の訪いなどはなく、ならばこそ此処にいる意味もなく。おまけに。
思い出す。
小美が大人になるきっかけとなった光景。
全く似合いに見えた、翔兄と朱貴妃。
小美は翔兄が『好き』だった。
だけどその『好き』が恋だったのだと知ったのは、翔兄の隣に自分以外の誰かが並ぶ姿を見たからだ。
羨ましいと思って、嫌だと思った。
翔兄の横に並ぶのは自分でなければ、そう願った。
なんて浅ましくも自分勝手な。
それで姿ばかり大人になっても、自分が変わったようには小美にはちっとも思えない。
まるで足りない自分を突きつけられるだけ。
その上、最近ではまるで翔兄の代わりのよう、涼を受け入れ始めている。
翔兄に見た目の似ている涼のことを、少し前までは疎ましく思っていたはずなのに。
「妾は……翔兄の見た目が好きなわけじゃないわ……」
翔兄を美しいと思うし、勿論、見目だって気に入っている。
けれど同じであればそれでいいわけがなく、なのに涼に気を許し始めている自分を自覚せざるを得なくて、そんな涼さえ近頃、昼間はそばにいないのだ。
そしてそれを寂しいと思っている。
まるで15年前と同じように。否。
「それでも夜に……涼は、訪れるから……」
全く同じというわけでは、ないのかしらね。
小美にはよくわからなかった。ただ。
すっかり寝支度を整えた、小美一人っきりの寝所へと、誰かが近づいてくるのがわかる。
慣れた気配。
もはや間違えようもないそれ。
「明妃様」
やがて微かにかけられた呼びかけに、小美は微かに返事を返して……――こうして、今日も。寝所へと訪れる涼を、どこか待ち望んでいた自分を、小美はいつからか認めざるを得なくなっているのだった。
12
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる