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68・毒②
しおりを挟む毒を盛られることそのものは、後宮ではままあることらしい。
そう、小美に教えてくれたのもまた、紅嬪だった。
なにせ涼を日中とんと見かけなくなってから、小美の側にいるのは瑞のみ。
入宮して然程も経っておらず、更に基本的には常に小美の側にいるばかりの瑞は当たり前ながら噂話などには疎い。
後宮内の細かな仕様など全く持って知りようがなかった。
他に接するのが訪ねてくる紅嬪と、見かける度ひそひそと陰口のようなものを囁く妃嬪や宮人たち、そして食事を共に摂る正后をはじめとした棗央宮の者たちぐらいなのである。
陰口は陰口だけあって、嫌な雰囲気を感じるだけで、内容までは聞こえて来ず、棗央宮の者たちは小美を何処かいまだに幼子のように扱い続けており、噂話や後宮の事情などから遠ざけているような節があった。
それでどうして情報など入って来ようというのか。
ちなみに涼がいない以上、小美は身支度などは全部自分一人で行っている。
そもそも涼が側につくようになる前まではやはり一人でこなしていたのだ、今更出来ないわけがない。
勿論、髪型などはどうしても少しばかり簡素になってしまうが、それでも見苦しくない程度には整えられている。
それが出来るからこそ、宮を持った始め、棗央宮から遣わされていた宮人たちを徐々に追い出していったのだから当然と言っていいだろう。
ともあれ、毒が盛られるなどと言うことがあったにもかかわらず、紅嬪は二日も経つ頃にはまた、明桃宮を訪れるようになっていたのだから小美は呆れるばかりだった。
あの時、小美たちに茶を入れていた宮人は可愛そうなほど怯え、震えていて、
「あっ、あっ、わ、私、私じゃないっ……! こ、こんなこと知らないっ……!」
と訴え続けており、実際にすぐさま駆け付けた警邏の者たちに伴われ、事情を確かめられたのだけれど、結果は白。
本当に何も知らないようだったのだとか。
調べたところ、どうやら茶器に予め毒が塗られていたようだとのこと、淹れ直す際に一杯目とは違う茶器を使用したらしく、だから一杯目のお茶には何もなかったようなのだけれど、それ自体はままあることで何らおかしなことはなく、茶器は初めから明桃宮に備え付けられていた物にそのまま手を伸ばしたということだった。
明桃宮には小美と瑞の二人しかいない。
そして二人は紅嬪が来て、彼女についてきた宮人が勝手にお茶を入れるでもなければ、それらの茶器に触れてすらおらず、また、食事の際は棗央宮まで出向いている。
無人となる時間がそれなりにあり、かつ、私室ならともかく、茶器を置いていた部屋などには特に施錠等もしていなかったことから、誰でも侵入可能な状態であり、いつから毒が塗られていたのかも不明なら誰が、ということなど全く見当もつかないという有り様で。
後宮内で普段からよくあるという、毒を盛る事象なのか、それとも最近になって囁かれるようになった、小鳥を投げ入れられるという件や先の襲撃とかかわりがあるのか、それすらも何もわからない。
毒の盛られた茶に口を付けたのは小美一人。
小美にはそういったものが効かないようなので、誰にも被害がなかったのは幸いだったことだろう。
諸々を知った正后が心配し、棗央宮より数人宮人を使わせてきたのは弊害と言えば弊害だろうか。
それら全てを眺めながら、瑞が苦い顔をしていた理由も、小美には不可解なままだった。
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