【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
70 / 96

68・毒②

しおりを挟む
 
 毒を盛られることそのものは、後宮ではままあることらしい。
 そう、小美シャオメイに教えてくれたのもまた、紅嬪だった。
 なにせリァンを日中とんと見かけなくなってから、小美の側にいるのはルイのみ。
 入宮して然程も経っておらず、更に基本的には常に小美の側にいるばかりの瑞は当たり前ながら噂話などには疎い。
 後宮内の細かな仕様など全く持って知りようがなかった。
 他に接するのが訪ねてくる紅嬪と、見かける度ひそひそと陰口のようなものを囁く妃嬪や宮人たち、そして食事を共に摂る正后をはじめとした棗央宮の者たちぐらいなのである。
 陰口は陰口だけあって、嫌な雰囲気を感じるだけで、内容までは聞こえて来ず、棗央宮の者たちは小美を何処かいまだに幼子のように扱い続けており、噂話や後宮の事情などから遠ざけているような節があった。
 それでどうして情報など入って来ようというのか。
 ちなみに涼がいない以上、小美は身支度などは全部自分一人で行っている。
 そもそも涼が側につくようになる前まではやはり一人でこなしていたのだ、今更出来ないわけがない。
 勿論、髪型などはどうしても少しばかり簡素になってしまうが、それでも見苦しくない程度には整えられている。
 それが出来るからこそ、宮を持った始め、棗央宮から遣わされていた宮人たちを徐々に追い出していったのだから当然と言っていいだろう。
 ともあれ、毒が盛られるなどと言うことがあったにもかかわらず、紅嬪は二日も経つ頃にはまた、明桃宮を訪れるようになっていたのだから小美は呆れるばかりだった。
 あの時、小美たちに茶を入れていた宮人は可愛そうなほど怯え、震えていて、

「あっ、あっ、わ、私、私じゃないっ……! こ、こんなこと知らないっ……!」

 と訴え続けており、実際にすぐさま駆け付けた警邏の者たちに伴われ、事情を確かめられた・・・・・・・・・のだけれど、結果は白。
 本当に何も知らないようだったのだとか。
 調べたところ、どうやら茶器に予め毒が塗られていたようだとのこと、淹れ直す際に一杯目とは違う茶器を使用したらしく、だから一杯目のお茶には何もなかったようなのだけれど、それ自体はままあることで何らおかしなことはなく、茶器は初めから明桃宮に備え付けられていた物にそのまま手を伸ばしたということだった。
 明桃宮には小美と瑞の二人しかいない。
 そして二人は紅嬪が来て、彼女についてきた宮人が勝手にお茶を入れるでもなければ、それらの茶器に触れてすらおらず、また、食事の際は棗央宮まで出向いている。
 無人となる時間がそれなりにあり、かつ、私室ならともかく、茶器を置いていた部屋などには特に施錠等もしていなかったことから、誰でも侵入可能な状態であり、いつから毒が塗られていたのかも不明なら誰が、ということなど全く見当もつかないという有り様で。
 後宮内で普段からよくある・・・・という、毒を盛る事象なのか、それとも最近になって囁かれるようになった、小鳥を投げ入れられるという件や先の襲撃とかかわりがあるのか、それすらも何もわからない。
 毒の盛られた茶に口を付けたのは小美一人。
 小美にはそういったもの・・・・・・・が効かないようなので、誰にも被害がなかったのは幸いだったことだろう。
 諸々を知った正后が心配し、棗央宮より数人宮人を使わせてきたのは弊害と言えば弊害だろうか。
 それら全てを眺めながら、瑞が苦い顔をしていた理由も、小美には不可解なままだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...