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66・襲撃②
しおりを挟むさて、いったいあの男は何だったのか。
わざわざ顔を隠してまで小美へと迫ってきたからには、あれは襲われたと見なしていいはずだ。
つまり、襲撃を受けたということで間違いないのだろう。
害意も、感じられたように思えたが判然としない。
なにせ瑞がすぐに遠ざけ、男も逃げてしまったからだ。
男が、実際には本当は何をしようとしていたのかすら、小美にはよくわからなかった。
ただ、紅嬪がぺらぺらと聞かせてくるようになった噂を思い出してみると、おそらく切り付けてこようとした、だとかそういうことなのではないかと思う。
紅嬪は確か、
「先日、房の入り口に小鳥を投げ込まれた宮人の一人が、夕暮れ時、1人でいたところ、背後から切りかかられたそうですわ。幸い、二の腕を浅く傷つけられただけだそうですけれど」
だとか言っていた。
男の手に本当に刃物があったかどうかもわからないし、いっそ手段は魔術だとかそういったものだったのかもしれない。
襲撃そのものはその一度きりではなく、数日おきに三度ほど発生し、二度目以降は一人の時を狙おうとしていたようだった。
ただ、小美が全く一人になるようなことはほとんどなく、多くは瑞が少し離れた隙に、だとかの折に襲いかかられるのだけれど、戻ってきた瑞を目にした途端、諦めたのかすぐに逃げてしまったり、近づいてきたかと思うと、やはり駆け付けた瑞を避けるように、襲いかかるとも言えないような距離で踵を返したりしていた。
どう見ても不審な行動なのだが、いまだ捕まえられていないらしい。
後宮内である以上、誰かからの手引きがあったのではないかと思われるが、身に纏っている衣装にも統一性がなく、どこの者なのかすら、判明していないのだという。
嫌がらせのような出来事は他にもあり、小鳥でこそなかったが、異臭を放つ腐敗物をやはり宮の入り口付近に投げ込まれていたこともあったし、どうやらそう言ったことだけでもないようだった。
もっともいくつかは、小美の目に留まるより前に瑞が処理してしまっているらしく、小美は実のところ、そういった不審な出来事の全容すら把握できてはいなかったのだけれど。
他の者もこのように何度も襲われているのか、それもまた小美には知るすべがなく。情報源というならば、紅嬪の噂話のみ。
同じよう、鳥の死骸を宮の入り口に投げ込まれていたという紅嬪自身はどのような被害にあったのか、それもどうしてだか聞く気にはならず。加えてこのことを紅嬪に伝えようとは小美には思えなくて。それまで通り、紅嬪が話すのを、うんざりしながら聞かされるばかりだったのである。
だから犯人は痺れを切らしたのか、それとも初めからそういう予定だったのか。
それが起きたのは、最初の襲撃から、二週間ほども経った頃のことだった。
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