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*60・重なる夜
しおりを挟む「明妃様」
夜も更け、疾うに寝台で眠りについていた小美は、耳慣れた声に揺り起こされた。
否、実際に揺れている。
「ぁっ?! ぁあんっ!」
ずんっと、突き上げられながら胎の奥、灯った熱があつい。
「ぁあっ!」
その瞬間、どばっと、小美に襲いかかってきたのは、頭を白く染め上げる快感だった。
ああ。
視界が揺れている。
目の前にいるのは涼だ。
否、これは本当に涼なのだろうか。
何とか、髪色に注視する。
薄暗い閨の灯りの中で、更に揺さぶられるままの視界ではなかなか判別が難しかったけれど、仄かに浮かび上がるような、鮮やかな紫であることがわかって、やはり涼に間違いはないと、どこかでがっかりしている自分を自覚した。
……――翔兄ではない。
だって翔兄は、もっと濃く青い色の髪をしているから。
だけど翔兄と同じよう、近頃は昼にちっとも姿を見せなくなった涼だった。
それでいて翔兄と同じよう、やはり夜にはこうして小美の元へと訪れるのだ。
「明妃様、明、妃様っ、うっ……ぁあ、なんて、お可愛らしい……」
息を詰めながら腰を振り、ぽたと滲む汗を小美の上へと滴らせる涼は髪色以外、今夜は余計に翔兄と、何処にも違いを見つけられないばかりだった。
だからだろうか、それとも他に理由があるのか。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあっ、ぁあんっ、ぁっ!」
突き上げられる動きに合わせて漏れる、意味など持たぬ声を堪えることなく上げながら、だけど小美が求めるのはただ一人。
それは決して涼ではなく。
「ぁっ、ぁっ、ぁあっ! 翔、兄……っ! ぁあっ!」
翔兄。
小美が求める只一人。
ずっとずっと傍にいて欲しい唯一の人。
こんな風に夜に、小美に触れるのは翔兄だけだったはずなのに、どうして今、小美は涼に揺さぶられているのだろうか。
「ぅっ、くっ……明妃、様っ……!」
「ぁあぁあぁあああっ!」
ひと際激しさを増した動きの果て、涼が苦し気に息を詰め、途端、胎の奥に広がった熱は、それすなわち涼が小美へと、魔力を注ぎ込んだ証。
その刺激に導かれるよう、小美の頭も白く惚け、直に何も考えられなくなっていく。
だって、だって。
ただ、熱いから。
胎の奥が熱くて熱くて。
そのうちに燃えてしまうのではないかと思った。
注ぎ込まれた魔力が、ぐるぐると小美の胎で渦巻いているのがわかる。
だけどそのまま、胎の中で、何かに集約されていくのがなぜなのかはわからない。
そもそも、この行為はいったい何なのか。
翔兄と。こうして夜に触れ合うのは、灯った熱を治める為なのだと聞いていた。
ならば涼も同じよう、小美で熱を治めようとしているのだろうと思う。あるいは小美が知らず熱を灯してしまっていて、それを悟った涼が治めようとしてくれているだけなのか。だけど。
どうして涼がそれをするのか。小美にはまったくわからなかった。
翔兄が秘密だと言った行為だ。
だから小美は注がれた翔兄の魔力を隠しまでしていた。
それを今、小美は涼と交わしている。
翔兄ではない涼と。
それなのに翔兄と、少しも違わないようにしか思えない涼と。
どうして。
わからない。
小美にはわからない。ただ、
「明妃様……ああ、なんてお可愛らしい……私の明妃様」
呟く涼の姿がいつかの夜の翔兄に重なっていく。
可愛い、可愛いと囁いて、溢れんばかりの慈しみを、小美へと注いでくれた翔兄と。
翔兄。
小美はここ半年と少し、翔兄とは一度も会えていなかった、否、そのはずだ。
翔兄はすっかり夜にさえ、小美の元へと訪れなくなってしまって。
その代わりのように現れた涼。
それらがいったい何を意味しているのか。
小美には何もわからなかった。
わかることなんて、たった一つ。
翔兄に会いたい。
こんな風に熱を治め合うのは翔兄とだけがいい。
ただ、それだけなのだった。
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