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59・涼の不在
しおりを挟む皇帝と翔兄は、親子なのだから当然似ている。
だけど勿論、そっくりそのまま同じというわけはなく、翔兄は正后に似ている所もちゃんとあった。
穏やかに、落ち着いて見えるのは三人共通と言えるだろう。
否、若さゆえか、その中では翔兄が一番、硬質な雰囲気を纏っていると言っていい。
それでも決して激しかったり粗雑だったり、厳しく見えるなどと言うことはなく。
髪色や目の色などの色彩が同じだからか、見た目というなら、より皇帝の方に似ていて、だけど正后と並ぶと、細かい部分などは正后とも同じで。
そしてそれは涼も何も違わないように思えたのである。
何分小美の目には、髪色以外は同じに見えるのだから余計に。
そんな涼だが、皇帝と夕餉を共にした後から数日経った頃から徐々に、昼にいなくなることが多くなり始めた。
涼が時折、姿を見せなくなること。それ自体はこれまでにもあった。
そもそも、普段からずっと小美の側から離れないというわけではない。
小美につき従う宮人は涼一人。
当然、小美から離れなければならないような用などはいくらでもあり、小美が例えば書庫やそういった場所で書物を読むのに夢中になっていたり、他でも、移動などしそうにない時を狙って、
「少し用を済ませて参ります」
などと言い置いて、席を外すことは全く珍しくもないことだった。
てっきり、初めはそれと同じようなものだと思っていたのだ。
小美に告げていく言葉もそう大きく違わないもので、すぐに戻るのだろうと。だけど。
さて、自分の宮にそろそろ戻ろうか、周囲を見ても、涼の姿が見えず、
「? 瑞一人なのね」
近くにいた彼にそう訊ねると、
「ああ、涼なら、今日は戻らないって聞いてるぜ」
と、答えられて、涼がそれまで以上に長く、戻らないようだと知ることが多くなっていったのである。
小美は別に一人でいられないわけでは決してない。
むしろ自分の周りから宮人を遠ざけていったのには、一人の時間を持ちたいと思った部分があったのは確かだった。
だから、構わないと言えば構わないのだ。
一人が心細いなどと言うわけでもない。
ただ、姿が見えないことが多くなったのに、違和感を抱くというだけの話で。
涼が小美に仕えるようになって数ヶ月。
半年にも満たない期間。
なのに、いつの間に、こんなにも近くにいることが当たり前になっていたのだろうか。
同じように近くにいながら、だけど決して重ならない態度の瑞を見ながら、小美はどこか途方に暮れたような気持ちになる自分を、自覚せざるを得なかった。
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