【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら

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56・昔馴染み

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 西王は美しい人だと、小美シャオメイはそう思っている。
 元より良家の、それも主家の者。見目が悪いはずがない。
 顔の造作が整っているのはもちろんのこと、それだけではない美しさが西王にはあるように感じられた。
 どう表せばいいのか、儚げな、少しでも無理に触れると手折ってしまいそうな不安定な繊細さがそこに見出せそうなほど。
 あるいは色気と言い換えても良いものだったかもしれないが、小美はそこまでを認識しているわけではない。
 ただ、美しいと思うだけで、それ以上はあくまでも漠然とした印象のようなもの。
 そもそも後宮には見目の良い者しかいないと言って過言ではないのだが、そのような者ばかりに囲まれて育って、ただ美しい見た目の者というだけならば見慣れているだろう小美がそう感じるのだから、西王の美貌が知れるというものだろう。
 そんな繊細な儚さの前では男性であるという性別の差さえ些末なことで。顔の造作そのものは小美ともよく似ているようなのだが、鏡に映った自分を美しいなどと思ったことはなく、ならば美しさとは、見目からのみ得るものではないのだろうとも、小美は思っている。
 例えば内面から滲み出るような、心惹かれる何か・・があるのだろうと。
 もちろん、正后や四貴妃の方々などは、西王とも勝るとも劣らない、それぞれにまた違った美しさを誇っているのだけれど。
 とりわけ、正后と蒼貴妃は西王とも何処か似通った、だけど確かに同じではない、見る者を和ませるような穏やかな印象を受ける雰囲気を有しているように思う。
 つい先日会った西王の、そういった憂いを秘めた美貌を思い出しながら小美は、一瞬、きょとんと目の前にいる正后の顔を見つめてしまった。
 それというのもつい今しがた、正后から、

「そう言えば昨日は西王と会う日だったわね」

 などと話しかけられたからである。
 いつも通り、棗央宮に赴いての朝食の席でのことである。
 小美は別にわざわざ西王との面会の予定など伝えてはいなかったけれど、誰か・・から聞いていたのか、それとも把握しておくべき・・・・・・・・としてそうしていたのか、正后は知っていたらしい。

「彼は……変わりないようだったかしら?」

 小美は小さく首肯する。
 昨日会った西王にいつも・・・と変わった様子は何もなかった。
 小美を気遣わしげに見ていたのも同じ。

「ええ、健やかに過ごされておられるようです」
「そう。それはなによりね」

 小美の返しに、正后は満足そうに頷いた。
 何かを懐かしむかのような表情。それでいて、同時にどこか、やるせなさそうな。
 西王の話題が出る度、正后はいつもこのような顔を見せる。
 だからだろうか。

「正后陛下と西王様は幼馴染みであられたとか」

 気付けば小美はそんなことを口に乗せていた。
 正后が柔らかく笑う。

「ほほ。そこまで親しかったわけではないわ。でも、そうね……お互いにそれぞれ四家当主の子供でしたから。他よりも少しばかり、触れ合う機会が多かったように思うわね。私はこれでも彼と、それなりに仲が良かったと自負しているの」

 確かに以前、聞いたことのある話だった。
 だからこそ、幼い小美を親代わりとなって育ててくれたのだとも。
 否、それを覚えていたがゆえに、先のように尋ねたとも言える。
 今よりもずっと幼い頃に、どうしてと尋ね、返ってきた応えがそれだったのだ。

「なんだか懐かしいわね……私と西王と……そして蒼貴妃と。気が合う部分があったのでしょうね。幼い頃、幾度か、共に過ごしたりしたものよ」

 言われてみると、穏やかでおっとりとした気性をしているように見える三人。
 なるほど、それは確かに気も合ったことだろうと、小美は同意するばかりだった。
 
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