58 / 96
56・昔馴染み
しおりを挟む西王は美しい人だと、小美はそう思っている。
元より良家の、それも主家の者。見目が悪いはずがない。
顔の造作が整っているのはもちろんのこと、それだけではない美しさが西王にはあるように感じられた。
どう表せばいいのか、儚げな、少しでも無理に触れると手折ってしまいそうな不安定な繊細さがそこに見出せそうなほど。
あるいは色気と言い換えても良いものだったかもしれないが、小美はそこまでを認識しているわけではない。
ただ、美しいと思うだけで、それ以上はあくまでも漠然とした印象のようなもの。
そもそも後宮には見目の良い者しかいないと言って過言ではないのだが、そのような者ばかりに囲まれて育って、ただ美しい見た目の者というだけならば見慣れているだろう小美がそう感じるのだから、西王の美貌が知れるというものだろう。
そんな繊細な儚さの前では男性であるという性別の差さえ些末なことで。顔の造作そのものは小美ともよく似ているようなのだが、鏡に映った自分を美しいなどと思ったことはなく、ならば美しさとは、見目からのみ得るものではないのだろうとも、小美は思っている。
例えば内面から滲み出るような、心惹かれる何かがあるのだろうと。
もちろん、正后や四貴妃の方々などは、西王とも勝るとも劣らない、それぞれにまた違った美しさを誇っているのだけれど。
とりわけ、正后と蒼貴妃は西王とも何処か似通った、だけど確かに同じではない、見る者を和ませるような穏やかな印象を受ける雰囲気を有しているように思う。
つい先日会った西王の、そういった憂いを秘めた美貌を思い出しながら小美は、一瞬、きょとんと目の前にいる正后の顔を見つめてしまった。
それというのもつい今しがた、正后から、
「そう言えば昨日は西王と会う日だったわね」
などと話しかけられたからである。
いつも通り、棗央宮に赴いての朝食の席でのことである。
小美は別にわざわざ西王との面会の予定など伝えてはいなかったけれど、誰かから聞いていたのか、それとも把握しておくべきとしてそうしていたのか、正后は知っていたらしい。
「彼は……変わりないようだったかしら?」
小美は小さく首肯する。
昨日会った西王にいつもと変わった様子は何もなかった。
小美を気遣わしげに見ていたのも同じ。
「ええ、健やかに過ごされておられるようです」
「そう。それはなによりね」
小美の返しに、正后は満足そうに頷いた。
何かを懐かしむかのような表情。それでいて、同時にどこか、やるせなさそうな。
西王の話題が出る度、正后はいつもこのような顔を見せる。
だからだろうか。
「正后陛下と西王様は幼馴染みであられたとか」
気付けば小美はそんなことを口に乗せていた。
正后が柔らかく笑う。
「ほほ。そこまで親しかったわけではないわ。でも、そうね……お互いにそれぞれ四家当主の子供でしたから。他よりも少しばかり、触れ合う機会が多かったように思うわね。私はこれでも彼と、それなりに仲が良かったと自負しているの」
確かに以前、聞いたことのある話だった。
だからこそ、幼い小美を親代わりとなって育ててくれたのだとも。
否、それを覚えていたがゆえに、先のように尋ねたとも言える。
今よりもずっと幼い頃に、どうしてと尋ね、返ってきた応えがそれだったのだ。
「なんだか懐かしいわね……私と西王と……そして蒼貴妃と。気が合う部分があったのでしょうね。幼い頃、幾度か、共に過ごしたりしたものよ」
言われてみると、穏やかでおっとりとした気性をしているように見える三人。
なるほど、それは確かに気も合ったことだろうと、小美は同意するばかりだった。
8
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる