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54・白家当主③
しおりを挟む小美に親しい者などいない。
そう、誰もいないのだ。それこそ、翔兄ぐらいしか。
気安く話す相手すら、いない。
小美は後宮の中の、それも棗央宮で育った。
当然、周りには常に幾人もの宮人が控えていたので本当に一人になったことの方が実際には少なかった。
だが、その反面、彼女らは棗央宮に所属する者たちであって、小美に個人的に仕えている者などおらず、その証拠のよう、固定で小美付きとして、常に付き従っている宮人はいなかったのである。
否、それに近い者はいたが、それも小美が自分の宮を賜るまでのこと。
今からだと、それこそ、十年以上前。自分の宮を持つことになって、初めは仕えてくれていた、やはり棗央宮から寄越された数人の宮人がいたのだが、年を経るにつれて、彼女らを次第に追いやっていったのは他でもない小美自身だった。
その者たちの内の一部とは、今も、棗央宮に食事に赴いた際などは顔を合わせるし、特に仲が悪いというわけではない。
だけどそれだけ。
決して気安く話したりなどするような仲ではなく、長年後宮で勤めてきた優秀な宮人である彼女たちは、良くも悪くも小美が望まない限り、不躾に小美にかかわってこようなどとはしなかった。
だからこそ小美は今、親しく接する者など誰もいないまま、ほとんどの時間を一人きりで過ごしている。
否、半年ほど前からは涼と、数日前からは瑞との三人になっているのだが、その二人とだって、気安く話すような仲ではない。
あくまでも彼らは宮人であるという立場を超えた態度は取らないからである。
ともかく、そんな風に、ほとんど毎日接しているような宮人とですら、親しい態度など取らない小美が、年に数度会うだけの『父』と親しく接せられるはずがない。
それに例えば今ここで紅嬪のことを西王に告げて、どうするというのだろう。
白家当主、西領の領主、西王。
その立場がこの国において多大なる影響力を持つことぐらいは、後宮の中以外を知らない小美だとてわかっている。
だけどその影響力が、後宮の中にまで及ぶとは思えない。
そもそも後宮の中にすら西王と言えども入れはしないのである。
こうして、後宮外の者との、面会用の部屋で会うのが精々で。
ああ、否、だけど、だからこそ。話してもいいかもしれないと思い直した。
後宮とは関係のない相手だからこそ。
「西王様。その……数日前の、ことなのですけど……」
躊躇いがちに話し始めた小美の言葉を、西王は真剣な顔つきで、遮ることなく最後まで耳を傾けてくれる。
時折打たれる相槌は、むしろ小美の口をより滑らかにしていくかのようですらあったのだった。
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