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52・白家当主①
しおりを挟む緑濃い樹々の合間、黄色い羽根の鳥がぴちちと囀った。
常日頃から、よく見かける鳥だった。
ここ、後宮の庭へとよく飛んでくる、名前さえ知らない小さな鳥。
ぴちち、小さな鳴き声と共に、葉末を揺らし、飛び立つ姿を何とはなしに目で追う小美に、控えめな声がかけられる。
「……心、ここにあらずといった様子だね」
穏やかな声は耳馴染みがいい。
だが決して、耳慣れた声ではない。
否、だからと言って聞き間違えるはずもない、年に数度は聞き続けている声だった。
声の聞こえてきた方に、すっかり逸れてしまっていた視線を戻す。
すっかりいつの間にか、目の前に座る彼ではなく、その更に向こうの庭の木々の方を見てしまっていた。
「西王様」
ぽつり、呟くように落とされた、小美の口にした呼び名に、西王と呼ばれた男が力なく眉尻を下げる。
そこには少しばかりの寂しさが含まれていて。
小美はそれがわかっていて、だけどどうすることも出来そうになかった。
いつもだ。そう思う。
いつも、この人はこんな顔ばかりしている。
一人で来る時も、小美の弟妹だという年若い、あるいは子供でしかない者達を連れてくる時も。
きっと誰が見ても美しいと称するだろう、見た目だけならば小美とそう大きくは変わらない年頃のようにも思える男性だった。
小美の父とされている白家当主その人である。
西王とはそのままずばり、白家当主のことを指す。
ここ大帝国、華を東西南北で四等分し、その内の西領を管理している白家の当主。
西領の云わば王と言える存在であるが故の西王だ。
ちなみに勿論、他の四家も同じよう、各家の当主は東王だとか、南王、北王と称されている。
それぐらいにはこの国において重要な立場にいる男性で、しかし何度こうして相対しても、とてもそんな風には見えず、穏やかな、いっそたおやかと言ってしまってもいい風情を纏う青年。
実際の年齢よりも随分と若々しく見えるのは後宮にいる年嵩の貴妃達がそう見えるのと同じ理由。その身に保有する魔力が多いゆえのこと。
その証拠に、特に白家特有の翠玉のような瞳も輝かんばかりに鮮やかだ。
同じよう緑色の髪だって、落ち着いた色味でこそあれ、暗すぎはせず。当主としての貫禄は、そんな風、身にまとう色からだけでも充分なほど。
顔の造作そのものは、それこそ鏡を見ているかのよう、小美とほとんど同じはずなのだけれど、改めてこうして対峙していても、小美にはちっともそんな風には思えない。
あの、半ば強制的な午餐の場へ参加せざるを得なくなった日。紅嬪が小美の元へと、よくわからない慈悲を乞いに来た日からすでに数日が経っていた。
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