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*51・夜の秘め事
しおりを挟むあの簪は何処に行ったろうか。
あの黄色い花はなんだったろうか。
揺れている。
揺れている。
ゆらゆらと。ゆるゆると。
「あっ、あっ、あっ、ぁあっ!」
自分の喉から上がる声が、ひどく媚びたもののように感じられた。
だけど声を堪えることなんて出来ない。
「うっ、くっ……ぅ、明妃、様っ……明妃様っ……!」
小美を揺さぶりながら、苦しげに呻く涼の眼差しに、翔兄と同じ色が見えるのはどうしてなのだろう。
小美にはわからない。
「明妃様っ、ぁあ……なんて、美しい……」
「ぁあっ!」
陶然と呟いて、だけど腰の動きを止めない涼に翻弄され、小美はただ、与えられる刺激を受け止めるだけで精一杯で。
先程まで見ていた夢の残滓を思い出す。
ああ、そうだ、自分は夢を見ていたのだ。
多分、きっとおそらく。過ぎた刺激に意識を飛ばし、その間に夢を見ていた。
いつかの夢。幼い頃の日々。
小美に笑いかける翔兄。
同じ甘さを孕む声に揺り起こされた。
否、声ではなく、正しくは小美の意識がなくともどうやら続けられていたらしい行為の刺激にか。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあっ、ああっ!」
上擦った声。
意味を成さない喘ぎ。
ただ、揺さぶられるのに合わせて漏れでた息は、なんだかひどくみっともなく滑稽で。だけどそれを堪えることすら小美には出来なくて。
「ああ、明妃様……ぅっ、」
「ひぁっ、あっ……!」
どくりどくり、腹の奥深く、吐き出された熱はいったいどんな意味を持つというのだろう。
溺れてしまう。
小美は思う。
もう、何もわからない。
「明妃様……」
呼ばれている名は違うはずなのに。どうしてだろう、涼の声に翔兄のそれが重なる気がした。
翔兄。
小美は涼に触れられながら、まるで翔兄に触れられているとしか思えないまま。今日もまた、夜が更けていく。
それは夜な夜な繰り返される密事。
今宵もまた誰にも悟られないまま。二人の間で交わされる行為。
小美にはこの行為の意味が解らない。
涼の、否、翔兄の熱を治めるための治療。
だからこそ、触れられて、拒めずに。
だけど、治療が必要なのは翔兄のはず。涼ではない。
なのにどうして拒めないのか。
そんなことわかり切っている。
涼が翔兄に似ているから。ただそれだけ。
たったそれだけの理由で、小美は今、こうして涼に組み伏せられ、揺さぶられている。
腹の奥、深くまで涼を受け入れさせられて。
どうして、こんなことをしているのだろう。
どうして、こんなことになったのだろう。
涼がまるで当たり前の顔をして、小美に触れてきたからだ。
翔兄と全く同じ手つきで、陶然と。
『ああ、なんて美しい……』
そう言いながら、翔兄と同じ眼差しで小美を見て。
だから、小美は。
嗚呼。
『翔兄……』
涼の手を、拒むことが出来なかったのだ。
治療が必要ならば。自分が納めなければと思ってしまった。
今まで小美にこうして触れるのは翔兄だけだったのに。それにはなんだか意味があるような気がしていたのに。
涼だけが違う。
否、涼だけが同じ。翔兄と同じ。
『明妃様……』
違う名で呼ばれているはずなのに、重なるように翔兄の声が聞こえた気がした。
涼が『明妃様』と呼ぶ声が、翔兄が『小美』と呼んだ声と同じようにしか聞こえなかった。
『涼……』
さて、小美の答えた声はいったいなんだったろうか。
今となってはもう、わからない。
「ぁあっ!」
ただ、あつい熱に翻弄され、腹の中を涼に掻き回されながら、小美は与えられる刺激を受け止めるだけなのだ。
体の奥、隅の隅まで、涼に染まっていく。
そんな風にまで、感じながら。
この夜もまた、長く、二人だけの密事は止むことがなかった。
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