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47・持ち掛けられた相談事④
しおりを挟む先程まで小美自身も参加していた午餐。
いつもなら他でもない小美が不参加であることが多いのだが、今日に限って言えばあの場で欠席していた者はいなかったはずだ。
才人以上の妃妾は皆、揃っていたように思う。
だが、その皆の顔色だとか、様子だとかまで、小美は全く見ておらず。
そもそも、普段から正后以外とは碌な交流を持たない小美は皆の普段の様子自体を知らず、その上、後宮の噂話だとかなど、何も知らないのである。
不穏な噂がどうやらあるようだということも、先程初めて耳にしたばかり。
詳細など何もわからず、今、紅嬪が話したことなども、全く把握していなかった。
後宮ではよくない噂などいくらでもある。
いくらでもあるが、実際に被害が出ただとかを耳にするのはこれまでそう多くはなかった。
例えば襲われただとかそんなことは、あるいは弱みにもなり得る話。
早々、自分の宮の外まで話を広げないよう努める者が多く、具体的に誰が、などと言うことまでは伝わって来ないことが常。
どの妃妾も何かがあった時、内々で処理しようとする傾向が強いのだ。
にもかかわらず、どうやら此度の噂は、常とは様子が違うらしい。
それほどまで被害が多いのか、あるいは偏りがないと言っていたから、そう言ったことが関係しているのかもしれない。もしくは。
思考を巡らせる小美の前で、紅嬪は更に言い募る。
「今まで、そりゃ、杏南宮の宮人も襲われてはいましたけど、その中に朱家の出の者はいなくて、きっと、傍流も含め、四家の者は大丈夫だろうと、そう……」
後宮に入宮するのに、四家の後ろ盾、少なくとも紹介は必要となるのだが、半面、宮人ともなると必ずしも四家の出の者とは限らなかった。
四家に仕えている使用人の縁者などの可能性も高いからだ。
そう言ったことも踏まえ、漠然と、傍流とは言え朱家の出である自分は標的にされることはないだろうと、紅嬪は思っていたということなのだろう。
わからなくもないな、と内心で頷く。
それだけ、この国において四家の影響が大きいからだ。
後宮内にも漫然と蔓延る、特権意識のようなものは後宮で育った小美自身よくわかっていることで、それを考えると、そうだろうなと納得するばかり。
だからこそ自分が次の標的なのではないかと危惧し、これほどまでに取り乱しているのだろう。
だが同時に思わずにはいられない。なぜ、自分が、と。
紅嬪とは本当に親しくもなんともないのである。
間違ってもこのような話を聞かされるような仲ではない。
紅嬪と仲のいい者は他にいたはずだ。
正三品の嬪なのだから、宮人だって何人も付いているだろうし、紅嬪自身、自分は無関係だろうと考えていた理由である特権だって揺らがない。
相談する相手など、小美でなくともよかったはずなのに、なぜ。
「紅嬪様……貴女が、随分と恐ろしく感じておられることはわかりましたわ。ですが、その話をなぜ妾に? 慈悲とは、何を……」
紅嬪は縋ってきたのだ。
地面に額ずく勢いで、小美に慈悲を、と。
全く、意味も何も分からなかった。
だから正直にそのままを問いかけた小美に、紅嬪がわなわなと震えだす。
「あ、あ、貴女しかいらっしゃらないっ……! 貴女ならなんとでも出来るはずですわっ……光家の者である貴女ならっ……!」
いったい紅嬪は何を言っているのだろう。
小美はぐっと眉根を寄せた。
今までの話で、一番、全く意味が解らないことだったからだった。
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