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46・持ち掛けられた相談事③
しおりを挟む紅嬪自身、自分とは関係のない話だと、そう思っていたのだという。
少なくとも昨日の夕方、自分の宮へと帰り着くまでは。
以前から噂は知っていた。
取るに足らない、ありふれたことだと思っていた。
真のわからない噂など、この後宮内ではいくらでもある。そんな噂の一つ。
自分とは所詮遠い話だと。
なにせ紅嬪は心当たりなどまるでなかったのだそうだ。
否、自分は大丈夫だと信じていた。
朱家の親戚筋の自分ならば、と。
始まりはいつだったのか。おそらくはもう三ヶ月ほどは前。
はじめは、数多ある他の噂とそう変わらないものだと思われていた。
だけどどうやら、他とは違うようだとわかったのは、実際に犠牲となったものが現れ始めたかららしい。つまり。
「自分の房で、倒れ伏している宮人が発見されました。理由は今もわかりません。ただ、状況と本人の聞き取りから、どうも毒のようなものを盛られたのではないかと……」
しかし結局、警備の宮人や医療官が調べてもいったいどんな毒が使われたのだとか言うことがわからなかった。
他にも襲撃に合うだとかする者が出始めて。
それが立て続けに数人。
襲撃は、誰ともわからぬものに切り付けられたり、毒虫を房にしかけられたり、寝込みを襲われたものまであるという。
どこの者なのかなどに偏りはなく、だけどこれまで被害が出ているのは宮人ばかり、ついには貴人と才人にも一人ずつ被害が出始め、それでも妃や嬪で狙われたものはいなかったらしい。なのに。
「こ、今度は私ですっ……! 私が狙われているのですっ! きっと……きっとすぐに! 今度こそ私は、儚くなってしまうのだわっ……!」
すぐに取り乱す紅嬪に根気強く更に話を聞いていく。
なぜ、自分が狙われていると思ったのか。偏りがないのではなかったのか。すると、
「お、襲われる前に、予告があることが分かったのです、自分の房、あるいは宮の入り口にと、鳥の死骸がっ……」
投げ込まれているのだと、紅嬪は訴える。
それも房、あるいは宮の主人が襲われたのと同じ襲われ方で。
違うことと言えば鳥は死んでいて、人は生きていることぐらいなのだとか。
「そ、その、宮人はそう大きな被害もなく、怪我なども大げさなものではないそうなのですが、さ、才人の方はそれよりも酷いことになっていて、貴人の方にもなると……」
幸い、儚くなられてはいませんし、先程の午餐にも出席なさっておられました。顔色はよろしくございませんでしたようですけれども……。
そこまで聞かされても、いったい誰のことなのかが小美にはわからなかった。
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