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39・午餐⑤
しおりを挟む初めこそ正后や蒼貴妃、玄貴妃が小美に話しかけてきていたのだが、勿論、いつまでもそのままなどと言うわけはなく、正后が他の妃嬪に話しかけたのをきっかけに、時間が進むにつれ、ざわざわと、あるいはひそひそとしたさざめきが広間中を満たしていく。
和やかと言っていい午餐の場と言っていいだろう。
正后はもとより、あまり口うるさく誰かを咎めたてたりなどするような性質ではない。
決して威厳がないだとか対応が甘いだとか言うわけではないのだが、反対に厳しい人物だというわけではないのは間違いがなかった。
当然、余程に礼儀を失していたりなど、目に余るようでもなければ、こう言った場で雑談している妃嬪たち、あるいは宮人などであっても、微笑ましく見守っているのみ。
そのうちに刺々しいばかりだった視線が一つ、また一つと小美から逸らされていく。
皆が自分たちのおしゃべりに夢中になっていっているからなのだろう、小美は内心でほっと安堵の息を吐いて、自分も食事を続けていった。
時折、やはり正后や蒼貴妃などに話を振られ、言葉を返したりなどもする。
だがそもそも小美は話好きだというわけでもないので、必然、口を開かずにいる時間が長かった。
そうして食事を続けていくうちに何となく違和感を覚えてさり気なく辺りを見回す。
ふと、目に留まったのは席として端に近いところ。
俯き加減に顔色を青くしている紅嬪の姿だった。
もしや体調でも悪いのだろうか。
先程までは確かに小美を、笑顔の影に隠しながら、それでも随分と良くない眼差しで睨んできていたように思うのだけれど。
紅嬪と言えばいつもそのような様子ばかりで、こんな風に小美に棘のある視線を向けず、俯いている姿など初めて見る。
そんないつもと違うように思える紅嬪の様子に、気付いたのは小美だけではなかったのだろう、正后がそっと傍らに控えていた宮人に何かを告げたかと思うと、その宮人は静かにそのまま紅嬪に退室を促しているようだった。
周囲の幾人かにひそと言付けて、控えめな挨拶だけ残して席を辞した紅嬪を、咎めるような様子は誰にもなかった。
正后が声高に指摘したりなどしなかったのはこの場を慮ってのこと。
あるいは紅嬪への気遣いに他ならなかったことだろう。
正后の意向だというのは、この場にいる皆、何も口にはしなかったけれど明白で、紅嬪の顔色が悪いのもあまりに明らかだったため、理由を察せないものもおらず。何事もなかったかのような様子で進んでいく午餐はなんとなく小美には白々しいもののように思える。
とは言え、これが社交と言えば社交なのだろうとなんでもない顔をして続けた食事はしまいにはなんとなく、いつもよりよほど味気なく思えるようになってしまうほどだった。
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