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34・重い気持ち②
しおりを挟む半日などと言う時間など、瞬く間に過ぎる。
否、普段なら時間を持て余すこともそれなりにあるのだが、こう言った場合に限って、早く過ぎるものなのだろう。
なお、何も予定がないのはいつも通りだったので、小美はこの日も朝から読書に勤しんでいたのだけれど、部屋から出なかったのは、なんだかそれすらもひどく億劫に思えてならなかったからだった。
涼と瑞は流石に無為に過ごすなどと言うことはなく、何くれとなく小美の身の回りの用を済ませた後は、小美の過ごす部屋からすぐの庭で、どうやら鍛錬に励むことにしたらしい。
帯刀などはしていないはず、いったい何を用いているのか、何かを打ち合う鋭い音を何とはなしに耳にしながら、しかし小美は気にせず手元の書物へと視線を落とし続けた。
そうしてしばらく、音が止むとほとんど同時に、誰かが、否、二人ともが近づいてくる気配。
ちらと外を見ると、陽の高さはちょうど、午餐に参加するとなると、そろそろ動き始めなければならないだろう頃合いに思える。
小美は心底深く溜め息を吐いて書物を閉じた。
行きたくない、そんな気持ちに尽きたが、行かないわけにもいかないこともまた同時にしっかりと理解している。
なにせわざわざ正后が参加を申し付けてきたのだから、意味もなく反故に出来るわけもない。
正后の言っていた皆との午餐。
それはつまり、後宮に住む妃嬪たち全員を招いての、定期的に開かれている午餐会を指した。
何か特別な理由がない場合は参加しない者などいない。
きっとそんなもの、小美ぐらいのものだろう。
なにせ開催場所は正后の暮らす棗央宮であり、主催は正后。
どうして正后からの正体を断れるというのだろう。
そんなもの、到底無碍にできるはずもない。
そもそも、参加したくないのなど、ただの小美の我儘に過ぎず、許されているからと、甘え続けてきただけなのだから。
普段からそう言った集まりには可能な限り参加せずに過ごしてきたのだけれど、それを咎めたりなどしないながら、正后が内心で気にかけていたことは知っていた。
正后は、否、棗央宮で勤めている者、どころか実のところ、小美や正后の主人である陛下まで皆、何くれとなく小美には甘く、小美の我儘を受け入れ続けてここまで来ていたのである。
そんな正后がだけど今日はとわざわざ告げてきた。
瑞が理由だと言っていたけれど、他の意味もあるのではないかと小美は思っている。
特に根拠のあることではないし、あるいはただ、都合がよかっただけかもしれない、だけど、と思うのはいったいどうしてなのだろう。
自分の、云わば勘のようなものに内心首を傾げながら、小美は仕方なく、それでいて大人しく、涼と瑞を従えて棗央宮へと足を向けた。
向かう道すがら、いつもよりずっと多い人の気配に小美は零れ落ちそうになった溜め息を飲み下す。
何処からか刺さるような眼差しが、まるで小美の存在そのものを咎めたててでもいるかのようだった。
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