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19・呼び名
しおりを挟む戸惑う小美に男……――瑞永はにこと人好きのする笑みを浮かべた。
それは同時に妙に男臭い笑みで、つい小美はドキッとしてしまう。このような逞しさにあふれた男性を、小美はこれまで見たことがなかったのである。
何せここは後宮。まともに接したことのある男性は皇帝陛下と翔兄、そして涼ぐらい。他にも宮人に幾人が男性もいるにはいるのだが、皆、華奢であったり小柄であったり、女性と見まごうものばかりだった。
護衛についている者も女性が多く、男性は後宮の外を守る人についているのだとか。
なお、皇帝陛下も翔兄も、共に男性らしい逞しさは持ってはいるのだが、どちらかというと美しいが勝る容姿をしていて、瑞永のような男臭さはない。聞けば先々代皇帝がどちらかというとそちらよりの容姿であったそうだが、いかんせん先々代皇帝ともなる方が後宮になど来るはずはなく、小美はあったことがあるらしいのだが、それも後宮に入るか入らないかの頃が最後だと聞いている。
余計にこのような雰囲気の男性に馴染みがなかった。
小美の動揺が伝わったのか、ようやく緩み始めていた涼の警戒がまた高まった気配がする。
ますますどうすればいいのかわからない小美に、瑞永はにこやかな雰囲気を崩さずに口を開いた。
「噂に違わぬこのお方のことはどうぞお気になさらず、明妃様。私のことはお気軽に瑞とでもお呼び下さい」
このお方、とは、涼のことなのだろうか。同じ宮人、否、白家所縁の者なのなら、むしろ瑞永の方が上位になるのではと思われるのに、妙にへりくだった言い方をするなとちらと思った。
だが、それに関しては深くは考えず、小美は戸惑いがちに小さく頷く。
「わ、わかりました、では瑞と」
小美の返事に、瑞永……――瑞は、改めてにこりと笑んで。
「棗央宮に向かわれるのでしょう? 足をお停めして申し訳ございません、どうぞ先にお進みください」
そう促してきたので、小美はもう一度ぎこちなく頷いて、元々の予定通り、棗央宮へ向かって歩き始めた。
小美の後ろ、涼の更に後から、瑞が着いて来ている気配がする。
勇ましく逞しいその気配は、なんだか慣れなくて、妙な居心地の悪さを、小美はずっと味わうこととなったのだった。
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