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15・知らされないということ
しおりを挟む「涼。貴方は聞いていて? 新しい妃妾ですって」
紅嬪を見送ったまま、涼の方を見もせずに口を開いた小美に、涼は顔を伏せたまま静かに頷く。
「分家から強引に薦められ、困っていると白家当主が相談に訪れたというお話しでしたら」
なるほど、紅嬪の言っていたことは本当らしい。白家所縁の者。そして涼は知っていた。
「なぜ、妾の耳には入っていないのかしら」
「まだ、決まったわけではございません。そのようなお話が出ているというだけです。明妃様のお心を煩わせるほどのことではないかと」
つまり小美は知る必要がないと判断されたのだろう。その判断は誰がしたのか。まさか涼本人ではあるまい。ならば両陛下のどちらか。
『明妃様はお可愛らしくていらっしゃるから』
本当にどこまでも紅嬪の言っていた通り。小美は子ども扱いをされている。
後宮のことなど、何も知らなくてよいと? 小美だって後宮の妃妾の一人なのに。どうしてこんな、蚊帳の外に置かれるような。
ぎりと、悔しさに唇を噛んだ。
陛下方が、小美をかわいがってくださっていることは知っている。小美はちゃんと自覚している。だけどそんな寵愛が、今ばかりは疎ましく。
否、わかってはいる。まだ話が出ただけで決まってはいないということだし、それでなくとも、小美には関係のないことだということなのだろう。
小美だって、知ったからと言って、何が出来るわけでもない。それにしても。
「妾はどのようなことも、知らされないままなのですね」
「明妃様?」
ぽつり、落とした呟きを聞き咎める涼の方など見ないまま、小美はくるりと踵を返した。
一度、自分の宮に戻ろうと思っていたけれど止めることにする。
紅嬪などの言葉に左右されるだなんて癪だけれども仕方がない。このまま自分の宮に戻ってしまうと、気分は落ち込むばかりな気がした。
こう言った時に出来る気分転換など、小美は多くは知らず。
「今日は資料庫に行きます。そこから動かないから、あなたも好きになさい」
つまりは他の思考で頭を埋めてしまおうと考えたのである。
「お供いたします」
当然の顔をしてついてくるという涼を強くは止めず、小美は来た道を戻っていった。
資料庫は棗央宮を超えて反対側にあり、自分の宮である明桃宮のすぐ傍まですでに戻ってきてしまっていたので、この場所からだと、一度、棗央宮の前までは足を伸ばさねばならない為だった。
図らずも自身の宮へと帰っていったのだろう紅嬪の後を追う形となってしまったのが少しばかり心に引っかかりはするのだけれど、立地の関係上、仕方がない。
もうこれ以上誰かに会うことがなければいいけれどと、小美は塞ぎ始めた心で願うことしかできなかった。
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