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14・得意げな紅嬪
しおりを挟む白家ゆかりの者が新しく一人、後宮に入る。
勿論、話の特性上、そう言ったこと全てが小美の耳に入ると言うことはこれまでなかった。
ただ、今回は白家の話。小美が知っていても決しておかしくはない。しかも年齢が小美と同じ年だ。
と、言うことは今年24。翔兄が程なく27になることを考えると年の頃はちょうどよいが、後宮に新たに入ることを考えると少し年が大きすぎるのではないかと感じられた。
後宮に入る者の多くは十代後半で、それでなくとも成人となる20歳頃であることが多い。
何か特別な意図があるのか。例えば翔兄自身が外で見出し、わざわざ後宮に迎え入れるだとか、そういった事情などだ。
話を聞いた紅嬪が気になって、何か知っていないかとわざわざ小美の元へ来たのも頷けた。
一人であるのはおそらく、他の者は他の者で、別に情報を集めに行っているのかもしれない。紅嬪の傍にいる宮人の中にはそれぞれ、李東宮や栗北宮の者と仲がいい宮人がいたはずなので。
紅嬪は桃西宮担当なのだろう。
朱貴妃の指示だろうか。否、小美の知る朱貴妃は、そのようなことをこそこそ探ったりせず、気になったのなら直接、正后陛下なり皇帝陛下なりに訊ねるような性質だったはず。
ならば紅嬪の独断か、もしくは他の妃妾とも共謀でもしているのか。
紅嬪はあまり頭が良くない。もう少し話が聞けないかと思って、小美は敢えて動揺を露わにして見せた。
簡単な話だ。偽らなかっただけである。
「まぁ、本当ですか? 何も聞いておりませんでしたわ……正后陛下も何もおっしゃっておられませんでしたし……白貴妃様からもお伺いしておりませんの。紅嬪はどちらからそのような話を?」
誰からも何も聞いていない。全て本当のことだった。
ショックを隠せないと言った風の小美の様子に、紅嬪は大変得意げな顔をしている。
そのまま滑らかな口がすべり出した。
「ほほ。明妃様はお可愛らしくていらっしゃるから、皆様お気をお使いになられたのかもしれませんわねぇ。いえ、わたくしも宮人の噂話を小耳にはさんだだけですのよ? でも、ほら、わたくし色々なことが気になる性質をしておりますでしょう? ですから、それで……」
これを意訳すると、小美は幼いから聞かされていないのだろう、噂話程度であっても自分は周囲に気を配っている、と言った所だろうか。
紅嬪が大変後宮内の全てに関心高くあることは事実で、小美が少々どころではなく疎いのもまた間違っていない話ではあった。
ただそうあれるということがどういうことなのか、おそらくいまだにわかっていないのだろう紅嬪はやはり少し愚かだと小美は思わずにはいられない。
もっとも、そのような自身の立ち位置に意味がないこともまた、まぎれもない現状ではあったのだけれども。
結局噂話程度でしかないということぐらいしか、紅嬪自身も情報を持っていないらしく、たったそれだけにもかかわらず大変満足した様子で紅嬪は去っていった。
足取り軽く遠ざかる背中を見送って小美は改めて溜め息を吐く。
それは、無駄な時間だったなとしか、思わなかったがゆえのものだった。
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