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6・半年と少し前のこと
しおりを挟む半年と少し。
それは小美が翔兄と全く会わなくなってからの期間と同じで、同時に恋心を自覚してからの長さとも一致した。
そもそも幼い頃は本当に兄弟のように育っていたはずの翔兄は大きくなるにつれ、徐々に後宮から足が遠のき始め、ここ数年に至ってはすっかり、顔を見ない日が多くなっていた。
それでも月に一度程度はなんだかんだと顔を合わせることがあったのだ。
半年と少し前までは。
後宮に出入りする人間は、誰であっても12を過ぎると全員に呪が施される。
男も女も、妃妾も宮人も関係なく、全員が等しく受けなければ立ち入れない呪であった。
それは誰かに子を成させることが出来なくなるもので、たとえ行為に及んだとしてもその呪がある限り、他者を孕ませることが不可能となる。言い方を変えるなら不能となる呪だ。。
なお、反応自体を妨げるものではないので、行為自体には問題がない。
後宮はあくまでも皇帝の子供を成すための場所だ。
簡単に言うならば、そこで生まれる子供が皇帝以外の種であってはいけないというだけの話ではあるのだろう。
一つ問題とするならば、その呪はどうやら男性と相性が悪いらしく、男性だけが、呪を受けている期間と同じだけの年数分、寿命が縮むことだろう。女性にはそのような副作用のようなものはないようで、だからか妃妾も等しく全員が呪を施されている。
その所為で宮人も男性だけが、最長でも10年と務められる年数が決まっていた。
この呪の例外はこの国の中でもたった二人。皇帝と皇太子だけである。
皇太子以外は皇子も皇女も関係なく、皇子も呪を施される為、12歳を超えた皇子は後宮を出て戻ることはない。
もちろん、小美自身にも適応され、、正后も同じ。当然涼も変わらなかった。
後宮に自由に出入りできる、皇帝以外の唯一である皇太子。
もし、後宮で生まれた子供の種が皇太子の物であったとしても、いずれは皇帝に立つのだから問題がないということなのだろう。
むしろ、皇太子の希望によっては、実母以外の妃妾が皇太子の妃妾になることすらある。
そのように、積極的に後宮へと通っても問題がないはずの皇太子は、しかしここ数年ばかりは、すっかり後宮へと足を向けることが少なくなっていて。小美は寂しいばかりだった。
だから、自覚したのだろうか。
否、違う。小美は自身の心を自覚した瞬間をはっきり覚えている。
それは半年と少し前のあの日。珍しく昼間に後宮を訪れた翔兄は、いつもなら訪ねてきてくれる明桃宮へは来てくれず、それどころか、後宮を訪れている事実さえ小美には知らせず、杏南宮へ足を向けていたのだ。
それを知ったのはただの偶然。
用事があって中庭を通りかかった時のこと。遠く、南の方、杏南宮の外廊下を、朱貴妃と並んで歩いているのを見た。仲睦まじく、やけに親密そうな様子で。
それを見た時の衝撃を、なんと言えばよかっただろうか。
お似合いだと、思ったのだ。
翔兄の隣にいる朱貴妃は、翔兄にこの上なくしっくりくるように小美の目には映った。
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