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5・正后からの贈り物
しおりを挟む「まぁ、小美。それは先日妾が贈った服ね。よく似合っているわ」
正后と共に朝食の席に着き、真っ先にそう言われ、そう言えばと思い至った。
どうやら今、身に着けているのは、正后が贈ってくれたものであったらしい。おそらく涼はわかっていてこの服を選んだのだろう。
明るい桃色の、可愛らしい印象の服。成人している小美には少し子供っぽすぎるのではないかと思う。
正后も皇帝もいまだに小美を我が子のように扱うのは変わらず、度々服や装飾品などを贈って寄越した。
そのくせ、皇帝が明桃宮を訪れたことは1度としてない。にも関わらず、贈られる品はどれもこれも実のない小美には過ぎたものばかり。
勿論、小美にそれらの拒否などできず、諾々と受けいれるしかなかった。
その所為で口さがない者たちが、陰で何と言っていることか。
「明妃様はいまだに幼くていらっしゃるから。陛下方はお可愛がりやすくておられるのでしょう」
まるで愛玩動物のようなお可愛らしさですものね。などと笑いながら告げられて、どうして何も思わずにいられよう。そこに潜む意味は、子供が分不相応に調子に乗るなと言った所。
正后や一部の貴妃以外の妃妾は、皆そんな調子で、いつまでも子ども扱いを受けるばかりで、実際に皇帝の閨へと侍ることのない小美を嘲笑わない者はいなかった。
明確に小美に何かを言ったりしたりすると、皇帝も正后も黙っていないことなどわかりきってはいるので、実際に小美が受けるのは遠回しな嫌味や嘲笑、小さな嫌がらせなどに留まっていて、どれも、他に言い訳の立つ程度のものばかり。
さざ波のような些細な悪意に晒され続け、しかし小美が疲弊しないはずはなく。
小美自身が、両陛下からの厚意に慢心していられるような性格ではなかったのもあって、最近では小美は、可能な限り彼らから距離を取ろうとしている。
とは言え、彼らは彼らで、いくら小美が心掛けたところで当然のごとく放っておいてなどはくれず、思うような効果は得られてはいなかった。
剰え涼のような宮人まで差し向けられては、もう、目も当てられない。
ともかく、自身の贈った服を身に纏う小美を嬉しそうに目を細めながら眺める正后の言葉を、小美は蔑ろにすることなど到底できず、微笑んで喜んでいる風を装った。
「涼が選んでくれたのですが、きっと、陛下からの贈り物を悦ぶ妾の気持ちを汲んでくれたのだと思いますわ。とても素敵なお召し物ですもの。似合っているようでしたらよかった」
小美の言葉に、正后はますます嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ここ半年と少しであなたは随分大きくなったけれど、そういう風にしているとまだまだ可愛らしい所が残っているようで、妾は安心してしまうわね」
正后に他意はない。小美の成長を喜んでくれているのは確かだ。ただ。
『愛玩動物のよう』
にしゃと、嫌な笑い方をしながら、小美にそんな言葉を浴びせかけた妃妾の様子が、どうしても脳裏によみがえってしまったのは、仕方がないことではあったと思う。
だから小美は必死に、強張りかけた顔が正后に知られないようにとだけ、祈ることしかできなかった。
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