上 下
7 / 96

5・正后からの贈り物

しおりを挟む

「まぁ、小美シャオメイ。それは先日妾が贈った服ね。よく似合っているわ」

 正后と共に朝食の席に着き、真っ先にそう言われ、そう言えばと思い至った。
 どうやら今、身に着けているのは、正后が贈ってくれたものであったらしい。おそらくリァンはわかっていてこの服を選んだのだろう。
 明るい桃色の、可愛らしい印象の服。成人している小美には少し子供っぽすぎるのではないかと思う。
 正后も皇帝もいまだに小美を我が子のように扱うのは変わらず、度々服や装飾品などを贈って寄越した。
 そのくせ、皇帝が明桃宮を訪れたことは1度としてない。にも関わらず、贈られる品はどれもこれも実のない小美には過ぎたものばかり。
 勿論、小美にそれらの拒否などできず、諾々と受けいれるしかなかった。
 その所為で口さがない者たちが、陰で何と言っていることか。

「明妃様はいまだに幼くていらっしゃるから。陛下方はお可愛がりやすくておられるのでしょう」

 まるで愛玩動物のようなお可愛らしさですものね。などと笑いながら告げられて、どうして何も思わずにいられよう。そこに潜む意味は、子供が分不相応に調子に乗るなと言った所。
 正后や一部の貴妃以外の妃妾は、皆そんな調子で、いつまでも子ども扱いを受けるばかりで、実際に皇帝の閨へと侍ることのない小美を嘲笑わない者はいなかった。
 明確に小美に何かを言ったりしたりすると、皇帝も正后も黙っていないことなどわかりきってはいるので、実際に小美が受けるのは遠回しな嫌味や嘲笑、小さな嫌がらせなどに留まっていて、どれも、他に言い訳の立つ程度のものばかり。
 さざ波のような些細な悪意に晒され続け、しかし小美が疲弊しないはずはなく。
 小美自身が、両陛下からの厚意に慢心していられるような性格ではなかったのもあって、最近では小美は、可能な限り彼らから距離を取ろうとしている。
 とは言え、彼らは彼らで、いくら小美が心掛けたところで当然のごとく放っておいてなどはくれず、思うような効果は得られてはいなかった。
 あまつさえ涼のような宮人まで差し向けられては、もう、目も当てられない。
 ともかく、自身の贈った服を身に纏う小美を嬉しそうに目を細めながら眺める正后の言葉を、小美は蔑ろにすることなど到底できず、微笑んで喜んでいる風を装った。

「涼が選んでくれたのですが、きっと、陛下からの贈り物を悦ぶ妾の気持ちを汲んでくれたのだと思いますわ。とても素敵なお召し物ですもの。似合っているようでしたらよかった」

 小美の言葉に、正后はますます嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ここ半年と少しであなたは随分大きくなったけれど、そういう風にしているとまだまだ可愛らしい所が残っているようで、妾は安心してしまうわね」

 正后に他意はない。小美の成長を喜んでくれているのは確かだ。ただ。

『愛玩動物のよう』

 にしゃと、嫌な笑い方をしながら、小美にそんな言葉を浴びせかけた妃妾の様子が、どうしても脳裏によみがえってしまったのは、仕方がないことではあったと思う。
 だから小美は必死に、強張りかけた顔が正后に知られないようにとだけ、祈ることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

処理中です...