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4・明桃宮
しおりを挟むこの国の皇太子は玉翔と言って、立場としては小美の義理の息子となる。
いかに実がないとはいえ、小美は一応、この後宮の妃妾なので。
なお、年齢は小美の3つ上だった。
正后の長子である皇太子と小美は、幼い頃はほとんど兄妹のように扱われた。
なにせ、皇帝と正后両陛下が親代わりだ。彼らを両親とする皇太子は、真実、兄のようなものだったろう。
小美自身も、翔兄と呼んで慕って。
それがおかしくなったのは、いったいいつの頃からだったろうか。
実の所、それほど以前のことではない。
この国の後宮では、十二になった皇帝の子息たる男児は国が運営する学院に入学する義務がある。
公主となる皇女にはその義務はなく、彼女らは他所に嫁に出るまで後宮で過ごした。
つまりこの後宮は現状間違いなく女の園だ。
魑魅魍魎が渦巻き、跳梁跋扈している。……――それは言い過ぎだが、小美は似たようなものだと思っていた。
皇帝の成した男児は二人。いずれも正后が産んでいて、皇女は五人。正后と四貴妃がそれぞれ一人ずつ産んだ。
そうなれば、皇帝の意図が透けて見えるというものだ。
つまり寵愛は正后にしかなく、他は義理だということ。その所為で今、この後宮は、少々物騒なことになっている。
やれ毒殺だ、刺客だ、なんて話が聞こえてくるのは日常茶飯事で、その割には被害の実態が掴めないので、あくまで噂に過ぎないのではないかとも思っている。
その噂の中に、真が紛れている可能性ももちろん充分に考えられるけれども。
いずれにせよ小美には関係がなく、しかし無関係ではいられなかった。
身支度を整えた小美は棗央宮に向かう。正后と朝食を共に摂る為だった。
これは幼い頃からの習慣で、もっと更に幼い時分には、小美自身が棗央宮で寝起きしていた。
母代わりというのは伊達ではないのだ。
ある程度大きくなってからは、小美がねだって別に宮を賜れはしたのだが、食事だけは共にときつく言いつけられている。
これもまた、やはりどうにも恐れ多いことだった。
小美が賜っている宮は明桃宮と言い、中央にある棗央宮より少しばかり西よりに位置した。
小美が白家の出身であるためだ。
白貴妃の起居する桃西宮は西側にあり、白家ゆかりの者の多くがその周辺の宮を賜っていた。
出身家でおおよその起居する宮が決まっている。これもまた、古くからの習わしだった。
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