65 / 67
4・これからの為の覚悟
*4-16・揺れる、混じる
しおりを挟む魔術には大げさな呪文や魔法陣など必要ではなかった。
魔法・魔術によっては、それらが付随する場合もあるのだが、少なくともこの古代の魔術にはそんなものはない。必要なのは場所を含めた条件と、術そのものへの理解。そして想像力だ。どれだけ明確に、具体的に、件の魔術を想定できるか。それに尽きた。残りはその想定に沿った魔力の行使。上手く魔力を操作できれば術は成る。今のように。
気持ちいいティアリィの体内に溺れそうになりながら、かろうじて理性の糸を握り締める。その上で慎重に、慎重に魔力を流していく。
溶けていく輪郭に逆らわず、乗せて。
腰を動かした。押して、引いて、揺らす。下肢から広がる気持ちよさに耐えながら、タイミングを計りつつ、適切な時に熱を吐いた。
「ぅっ……く、」
とぷとぷと僕の熱がティアリィの中に広がっていく。同時に存在が混ざって、溶けて。上手く、交じり合えればいいけど。まだつながり切れていない。
だけど徐々に深くなっている。
繋いだ所から注いだ魔力は、ティアリィに拒絶されることなく馴染んで。それにほっと安堵した。
ああ。やっと。
やっと。
やっと、ティアリィに、僕の魔力を渡すことが出来た。たったそれだけが嬉しくて、顔が歪んだ。ああ、やっと。
腰を揺らす。もっと、もっと。上手く、繋げないと。だからもっと。
押して、引いて、回して、擦って、揺らして。どれだけ、そうしてティアリィに注ぎ込んだことだろう。やがて。
「あっ!」
ティアリィの体がびくんと震えて、それまで以上に高い声が、彼の喉から迸った。
うっすらと閉じられていた瞼が開いている。気が付いたのだろう。ちょうど今、全部、つながったから。
「よかった。つながったね」
ほっと、安堵の息と共に口からこぼれ出た。
同時に息を詰めて、ぐっと腰を揺らす。意識の戻ったティアリィの中は、途端、今までとは比べ物にならないきつい締め付けで僕を翻弄し始めていて、気を抜くとすぐにでも持っていかれそうだった。
「ん! ぁっ……! でん、か……?」
蕩けきった声を上げたティアリィは、だが目を白黒させて驚いている。状況が理解できないのだろう。だろうと思う。
ティアリィが視界をぐるりと見まわしたのが分かった。
この場所が気になったのだろう。
此処は塔だ。
ティアリィと何年も前に幾度か来た。異界の星空が望める塔。
ティアリィの煌めく水色の瞳は、今、星空に満ちている。
キラキラと瞬いて。
キレイだ。
僕は見惚れながら少し笑んだ。
ああ、彼はなんて美しい。
でも。
「あぁっ!」
ティアリィの最奥を幾度目か、また押し開くと、彼は仰け反って高い声を上げた。
まだ、足りない、から。
「んっ、んっ、ごめ、ん、ティアリィ……っん! もうちょっ、と……」
言いながら腰を揺らし、熱を吐き出した。ティアリィの中を、僕の熱で満たしていく。なった術の所為で、それらはすぐに溶けて。混じって。もう、彼と僕は一つだ。
「あ! あ! あ! あ!」
揺らす度、奥を突く度、ティアリィが高く啼く。その声に数日前の痛みなどはなく、ただ快楽だけを纏わりつかせて濡れて。
僕は久しぶりに満足するまで熱を吐き出し続けた。
「ぁっ! ぁあぁあぁああっ……!」
ティアリィの感じている快楽が、僕に流れ込む。きっとティアリィも今、僕のそれを感じている。
それは何処までも気持ちよく、脳の奥が痺れるような快感で。癖になりそうだ。こんな悦楽、早々ない。ただ、体を合わせるのとは全然違う。目が眩んで、自我も遠ざかりそうなほど強烈なそれだ。
夢中で腰を振って、熱を吐いて。ようやく、動きを止められた時には、ティアリィは蕩けきって、視線もぼんやりと彷徨わせるばかりとなっていた。
ほうと安堵の息を吐く。僕は小さく笑った。
「今は、大丈夫そうだね」
よかった。
見ている限りティアリィに、苦しそうな様子はない。僕の魔力とティアリィのそれが混ざって、隅々にまで満ちて。ティアリィの腹にいる子供にも、目立った問題はなさそうだった。
「でん……か?」
ティアリィが掠れて小さい、微かな声で僕の名を呼ぶ。
応えるように僕は頷いて口を開いた。
「ティアリィにはわかっているよね。僕と君の、存在自体をつなげたんだよ。これなら、受け取るとか受け取らないとか、拒絶も何もない。だってこうしたら君は僕で僕は君だ。とはいえこれも、一時的なものだけど。何度もできることじゃない。長時間こうしてもいられない。でも、これだけ注げたらルーファ嬢よりは少し、長く持たせられるかな」
それは禁忌に近い魔術。分かたれた別々の存在を一つにつなげるそれ。長時間、行使してはいられないが、一時的になら問題ないだろうと判断した。一歩間違えば、僕とティアリィの存在全てが溶けてしまう恐れもある、危険な魔術ではあるのだけれど。
でも、僕の読み通り、今のティアリィに魔力欠乏の気配はない。
「此処は、元々魔術要素のみで出来た空間だから、都合が良くて。時間制限も初めからあるから、最悪の事態にはならないだろうし。でも、場所をより確実にするために、床にも広げたんだよ」
言いながら周りに視線を巡らせる。一面の星。上も下も横も、全て星。僕達は今、星の只中にいた。
ティアリィも、僕と同じように周りを見ている。瞳にきらきらと星を映して。
僕は泣きたい気持ちで彼を見つめた。
この魔術は夜だけのものだ。否、夜が明けると同時、強制的に解けるようにと意図も含めてこの場所を選んだ。もっとも、こんな場所は他にないので、ここ以外の選択肢など初めからありはしなかったのだけれど。
「直に夜が明ける。そうしたら僕たちは離れてしまうだろう。その前に僕は、今度は言葉を尽くさなければいけないね」
もう、あと尽くせるのは心だけなのだから。
ティアリィから、少し体を離して微笑む。それは今、僕が浮かべられる、最大限の笑みだった。
7
お気に入りに追加
568
あなたにおすすめの小説
伴侶設定(♂×♂)は無理なので別れてくれますか?
月歌(ツキウタ)
BL
歩道を歩いていた幼馴染の俺たちの前に、トラックが突っ込んできた。二人とも即死したはずが、目覚めれば俺たちは馴染みあるゲーム世界のアバターに転生していた。ゲーム世界では、伴侶(♂×♂)として活動していたが、現実には流石に無理なので俺たちは別れた方が良くない?
男性妊娠ありの世界
死にぞこないの魔王は奇跡を待たない
ましろはるき
BL
世界を滅ぼす魔王に転生したから運命に抗ってみたけど失敗したので最愛の勇者に殺してもらおうと思います
《魔王と化した兄に執着する勇者×最愛の弟に殺してもらいたい魔王》
公爵家の若き当主であるアリスティドは、腹違いの弟シグファリスと対面したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
この世界は前世で愛読していた小説『緋閃のグランシャリオ』と全く同じ。物語と同様の未来が訪れるのならば、アリスティドは悪魔の力を得て魔王へと変貌する。そして勇者として覚醒した弟シグファリスに殺される――。
アリスティドはそんな最悪の筋書きを変えるべく立ち回るが、身内の裏切りによって悪魔に身体を奪われ、魔王になってしまう。
物語と同じ悲劇が起こり、多くの罪なき人々が殺戮されていくのをただ見ていることしかできないアリスティドが唯一すがった希望は、勇者となったシグファリスに殺してもらうこと。
そうして迎えた勇者と魔王の最終決戦。物語通りシグファリスの手で殺されたはずのアリスティドは、瀕死の状態で捕らえられていた。
なぜ物語と違う展開になっているのか、今更になって悪魔の支配から抜け出すことができたのかは不明だが、アリスティドはシグファリスに事情を説明しようと試みる。しかし釈明する間もなくシグファリスに嬲られてしまい――。
※物語の表現上、暴力や拷問などの残酷な描写が一部ありますが、これらを推奨・容認する意図はありません。
※この作品は小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載しています。
悪役令息は楽したい!
匠野ワカ
BL
社畜かつ童貞のまま亡くなった健介は、お貴族様の赤ちゃんとして生まれ変わった。
不労所得で働かず暮らせるかもと喜んだのもつかの間。どうやら悪役令息エリオットに転生してしまったらしい。
このままじゃ、騎士である兄によって処刑されちゃう!? だってこの話、死ぬ前に読んだ記憶があるんだよぉ!
楽して長生きしたいと処刑回避のために可愛い弟を演じまくっていたら、なにやら兄の様子がおかしくなってしまい……?(ガチムチ騎士の兄が受けです)
「悪役令息アンソロジー」に寄稿していた短編です。甘々ハッピーエンド!!
全7話完結の短編です。完結まで予約投稿済み。
屈強冒険者のおっさんが自分に執着する美形名門貴族との結婚を反対してもらうために直訴する話
信号六
BL
屈強な冒険者が一夜の遊びのつもりでひっかけた美形青年に執着され追い回されます。どうしても逃げ切りたい屈強冒険者が助けを求めたのは……?
美形名門貴族青年×屈強男性受け。
以前Twitterで呟いた話の短編小説版です。
(ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)
婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々
月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。
俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。
悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話
四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。
※R18はタイトルに※がつきます。
王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない
兎騎かなで
BL
塔野 匡(ただし)はバイトと部活に明け暮れる大学生。だがある日目覚めると、知らない豪奢な部屋で寝ていて、自分は第四王子ユールになっていた。
これはいったいどういうことだ。戻れることなら戻りたいが、それよりなにより義兄ガレルの行動が完璧にユールをロックオンしていることに気づいた匡。
これは、どうにかしないと尻を掘られる! けれど外堀が固められすぎてて逃げられないぞ、どうする!?
というようなお話です。
剣と魔法のファンタジー世界ですが、世界観詰めてないので、ふんわりニュアンスでお読みください。
えっちは後半。最初は無理矢理要素ありますが、のちにラブラブになります。
魔導書の守護者は悪役王子を護りたい
Shizukuru
BL
前世、面倒くさがりの姉に無理やり手伝わされて、はまってしまった……BL異世界ゲームアプリ。
召喚された神子(主人公)と協力して世界を護る。その為に必要なのは魔導書(グリモワール)。
この世界のチートアイテムだ。
魔導書との相性が魔法のレベルに影響するため、相性の良い魔導書を皆探し求める。
セラフィーレが僕の名前。メインキャラでも、モブでもない。事故に巻き込まれ、ぼろぼろの魔導書に転生した。
ストーリーで言えば、召喚された神子の秘密のアイテムになるはずだった。
ひょんな事から推しの第二王子が所有者になるとか何のご褒美!?
推しを守って、悪役になんてさせない。好きな人の役に立ちたい。ハッピーエンドにする為に絶対にあきらめない!
と、思っていたら……あれ?魔導書から抜けた身体が認識され始めた?
僕……皆に狙われてない?
悪役になるはずの第二王子×魔導書の守護者
※BLゲームの世界は、女性が少なめの世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる