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4・これからの為の覚悟

*4-16・揺れる、混じる

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 魔術には大げさな呪文や魔法陣など必要ではなかった。
 魔法・魔術によっては、それらが付随する場合もあるのだが、少なくともこの古代の魔術にはそんなものはない。必要なのは場所を含めた条件と、術そのものへの理解。そして想像力だ。どれだけ明確に、具体的に、くだんの魔術を想定できるか。それに尽きた。残りはその想定に沿った魔力の行使。上手く魔力を操作できれば術は成る。今のように。
 気持ちいいティアリィの体内に溺れそうになりながら、かろうじて理性の糸を握り締める。その上で慎重に、慎重に魔力を流していく。
 溶けていく輪郭に逆らわず、乗せて。
 腰を動かした。押して、引いて、揺らす。下肢から広がる気持ちよさに耐えながら、タイミングを計りつつ、適切な時に熱を吐いた。

「ぅっ……く、」

 とぷとぷと僕の熱がティアリィの中に広がっていく。同時に存在・・が混ざって、溶けて。上手く、交じり合えればいいけど。まだつながり切れていない。
 だけど徐々に深くなっている。
 繋いだ所から注いだ魔力は、ティアリィに拒絶されることなく馴染んで。それにほっと安堵した。
 ああ。やっと。
 やっと。
 やっと、ティアリィに、僕の魔力を渡すことが出来た。たったそれだけが嬉しくて、顔が歪んだ。ああ、やっと。
 腰を揺らす。もっと、もっと。上手く、繋げないと。だからもっと。
 押して、引いて、回して、擦って、揺らして。どれだけ、そうしてティアリィに注ぎ込んだことだろう。やがて。

「あっ!」

 ティアリィの体がびくんと震えて、それまで以上に高い声が、彼の喉から迸った。
 うっすらと閉じられていた瞼が開いている。気が付いたのだろう。ちょうど今、全部・・つながった・・・・・から。

「よかった。つながった・・・・・ね」

 ほっと、安堵の息と共に口からこぼれ出た。
 同時に息を詰めて、ぐっと腰を揺らす。意識の戻ったティアリィの中は、途端、今までとは比べ物にならないきつい締め付けで僕を翻弄し始めていて、気を抜くとすぐにでも持っていかれそうだった。

「ん! ぁっ……! でん、か……?」

 蕩けきった声を上げたティアリィは、だが目を白黒させて驚いている。状況が理解できないのだろう。だろうと思う。
 ティアリィが視界をぐるりと見まわしたのが分かった。
 この場所が気になったのだろう。
 此処は塔だ。
 ティアリィと何年も前に幾度か来た。異界の星空が望める塔。
 ティアリィの煌めく水色の瞳は、今、星空に満ちている。
 キラキラと瞬いて。
 キレイだ。
 僕は見惚れながら少し笑んだ。
 ああ、彼はなんて美しい。
 でも。

「あぁっ!」

 ティアリィの最奥を幾度目か、また押し開くと、彼は仰け反って高い声を上げた。
 まだ、足りない、から。

「んっ、んっ、ごめ、ん、ティアリィ……っん! もうちょっ、と……」

 言いながら腰を揺らし、熱を吐き出した。ティアリィの中を、僕の熱で満たしていく。なった術の所為で、それらはすぐに溶けて。混じって。もう、彼と僕は一つだ。

「あ! あ! あ! あ!」

 揺らす度、奥を突く度、ティアリィが高く啼く。その声に数日前の痛みなどはなく、ただ快楽だけを纏わりつかせて濡れて。
 僕は久しぶりに満足するまで熱を吐き出し続けた。

「ぁっ! ぁあぁあぁああっ……!」

 ティアリィの感じている快楽が、僕に流れ込む。きっとティアリィも今、僕のそれを感じている。
 それは何処までも気持ちよく、脳の奥が痺れるような快感で。癖になりそうだ。こんな悦楽、早々ない。ただ、体を合わせるのとは全然違う。目が眩んで、自我も遠ざかりそうなほど強烈なそれだ。
 夢中で腰を振って、熱を吐いて。ようやく、動きを止められた時には、ティアリィはとろけきって、視線もぼんやりと彷徨さまよわせるばかりとなっていた。
 ほうと安堵の息を吐く。僕は小さく笑った。

「今は、大丈夫そうだね」

 よかった。
 見ている限りティアリィに、苦しそうな様子はない。僕の魔力とティアリィのそれが混ざって、隅々にまで満ちて。ティアリィの腹にいる子供にも、目立った問題はなさそうだった。

「でん……か?」

 ティアリィが掠れて小さい、微かな声で僕の名を呼ぶ。
 応えるように僕は頷いて口を開いた。

「ティアリィにはわかっているよね。僕と君の、存在自体をつなげた・・・・・・・・・んだよ。これなら、受け取るとか受け取らないとか、拒絶も何もない。だってこうしたら君は僕で僕は君・・・・・・・だ。とはいえこれも、一時的なものだけど。何度もできることじゃない。長時間こうしてもいられない。でも、これだけ注げたらルーファ嬢よりは少し、長く持たせられるかな」

 それは禁忌に近い魔術。分かたれた別々の存在を一つにつなげるそれ。長時間、行使してはいられないが、一時的になら問題ないだろうと判断した。一歩間違えば、僕とティアリィの存在全てが溶けて・・・しまう恐れもある、危険な魔術ではあるのだけれど。
 でも、僕の読み通り、今のティアリィに魔力欠乏の気配はない。

「此処は、元々魔術要素のみで出来た空間だから、都合が良くて。時間制限も初めからあるから、最悪の事態にはならないだろうし。でも、場所をより確実にするために、床にも広げたんだよ」

 言いながら周りに視線を巡らせる。一面の星。上も下も横も、全て星。僕達は今、星の只中にいた。
 ティアリィも、僕と同じように周りを見ている。瞳にきらきらと星を映して。
 僕は泣きたい気持ちで彼を見つめた。
 この魔術は夜だけのものだ。否、夜が明けると同時、強制的に解けるようにと意図も含めてこの場所を選んだ。もっとも、こんな場所は他にないので、ここ以外の選択肢など初めからありはしなかったのだけれど。

じきに夜が明ける。そうしたら僕たちは離れて・・・しまうだろう。その前に僕は、今度は言葉を尽くさなければいけないね」

 もう、あと尽くせるのは心だけなのだから。

 ティアリィから、少し体を離して微笑む。それは今、僕が浮かべられる、最大限の笑みだった。
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