【完結】悪役令息?だったらしい初恋の幼なじみをせっかく絡めとったのに何故か殺しかけてしまった僕の話。~星の夢・裏~

愛早さくら

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4・これからの為の覚悟

4-6・突きつけられた僕の、

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 子供は見た所、3つか4つ。僕は今19だから逆算して、14か15の時の子供だとでもいうのだろうか。年齢的に不可能ではない。不可能ではない、が。
 身に覚えなど、欠片もなかった。

「は?」

 もう一度、間抜けな声を上げてしまった僕に、ティアリィは顔を逸らして、小さく笑った。
 僕はからかわれでもしたのだろうか。

「殿下もさっきおっしゃっていらしたじゃないですか。血は薄いって。だから、殿下のお子様じゃないことなんてわかっています」

 ティアリィがそう言ってくれたので、僕はほっと息を吐く。疑っていたわけではないらしい。ではやはりからかわれていた? 答えは続くティアリィの話で明らかとなった。

「ですが、王宮に、殿下の落とし胤・・・・だと言って連れてこられたのは事実です。出入りの業者が人から頼まれたのだと門番へと押し付けたのだとか。通りがかりに門番が困っている所に遭遇して、そちらでは埒が明かないだろうと俺が連れてきました。殿下に報告もしなければなりませんし」

 本当の所はどうあれ、僕の子供だという触れ込みは、別にティアリィのからかいなどではなかったらしい。

「そうか」

 僕は安堵して応用に頷く。ティアリィは続けた。

「問題の業者はとりあえず近衛の方で取り調べてもらっています。探査の使用許可も降ろしましたし、詳しいことが分かり次第、俺の方へ報告を上げるよう指示しました。手紙も一緒にあずかりましたが、それでわかるのはこの子の年齢ぐらいでしたね」

 今4歳なのだそうだ。状況を端的に報告してくれたティアリィに僕は再度頷く。対応としても、特に問題はない。

「そう、ありがとう。それでいいよ」

 なら、後の問題と言えば、この子自身の処遇だろうか。わざわざここまで連れてきたということは、何かティアリィに意図でもあるのか。どこかで誰かに預ければよかったのに。
 勿論、僕とは最低限一度は会うことになっただろうけれど。
 子供はおとなしく何も話さない。僕が怖がられている、というわけでもないとは思うのだけれど。ただ、ティアリィには縋っているようにも見えた。こんな子供でもティアリィの非凡さは伝わるものなのかもしれない。
 僕はティアリィと子供の様子を眺めながら、何の気なしに先をこう訊ねた。

「それで、その子はどうするの?」

 施設にでも預ける? と、そう。
 だが、ティアリィから返ってきた応えは。

「俺が引き取ります」

 そんなもので。

「は?」

 僕は三度、間抜けな声を上げることとなってしまったのだった。
 なぜ、そんな話になったのか。そんな必要、何処にもないはず。僕の、隠し子だという触れ込みだから? だが、そんな事実はない以上、ティアリィには何の関係もない。

「何を言っているんだ、ティアリィ。そんなこと、許可できるはずないだろう?」

 そう告げた僕の声が、ひときわ険しくなってしまったのも、仕方がない話だと思うのだ。
 途端、ティアリィも気分を害したのだろうことが分かった。

「なら、殿下はこの子をどうするって言うんです?」
「さっきも言っただろう? 施設にでも預ければいい」
「たとえ薄くとも、王族の血が流れています。中途半端な物になど任せられない」

 ティアリィの声がきつくなって、そうすると返す僕の口調も、自然、応えるように荒くなっていく。
 首を横に振るティアリィにも、僕は苛立ちが隠せなくなった。

「だからと言って、それに君が名乗りを上げる必要なんてない」

 施設に入れるのが良くないとして、なら王宮の、例えば女官などでも面倒ぐらい見られるのだ。

「殿下の隠し子だそうですよ」
「まさか、信じているのか?!」

 皮肉気なティアリィの声に、思わず僕は声を荒げた。
 だが、ティアリィは首を横に振る。そうではない。そうではないのだと。

「殿下の種じゃないことなんて、見ればわかります」

 さっきも同じ話をした。別に疑っているわけではないらしい。そうだろう、そうだろうとも。
 僕はほぉっと小さく息を吐く。落ち着け、落ち着かなければ。

「そうだろう。僕はそもそも、君以外知らない・・・・よ」

 ああいう経験自体、ティアリィ以外となどしたことがない。

「……その子の血が、薄いことぐらい、君にもわかるだろう? それぐらいの血の濃さなら、施設に入れてしまえばいい」

 繰り返しには、なるけれども。結局は同じ話と同じ結論に戻った。先程一瞬、頭に上った血が、ようやく少し下りてくる。落ち着け、落ち着かなければ。もう一度内心で呟いて。

「ティアリィ。施設に入れたくないのなら、僕だって何も、無理にとは言わない。王宮で面倒を見るのはいいんだ。でも、そんなの、侍女でも侍従でも、それこそ女官や官吏だってかまわないはず。君がわざわざ引き取る必要なんてないじゃないか」

 僕は努めて柔く、口調に気を付けながら、宥めるようにそう続けた。ティアリィは今、身重だ。それで小さな子供の面倒を見るだなんて、到底、許可できるはずがない。それは確かに、その子は見た限り乳児ではなく、成長に魔力が要るような年齢ではないようではあった。だが、ティアリィ自身の状態が、いくら今は落ち着いてきたとはいえ、決していいわけではないのだ。
 今、ティアリィの腹にいる子供が育つには過剰なほどの魔力が必要で、その魔力も、僕以外のものなんて、僕には混じらせるつもりがない。加えてティアリィは仕事にも就いている。
 小さな子供の面倒を新たに見る余裕なんて、どう考えてもあるとは思えなかった。
 だが、僕の言葉の、いったい何が気に食わなかったのだろうか。ティアリィの気配が急に荒ぐ。言いようのない苛立ちが、すぐにこちらにも伝わってきた。

「ピオラは王族だ! この子と同じ!」
「っ……! 同じじゃない!」

 この子、と言って指されたのが、よりにもよってティアリィ自身の腹で、僕は目を見開いて驚き、すぐに強く否定した。これまでで一番強い口調だ。
 今、ティアリィは何を言ったのか。信じられない。
 今日、ついさっき初めて会ったばかりであるはずの、血も薄い誰とも知らない子供と、ようやくなった僕達の子供と、それがどうして同じなのか。それはいったい、どういう意味で。
 混乱して苛立つ僕に、ティアリィもまた、苛立ったまま。
 否、戸惑って、悲しんで……?
 僕は何も間違ったことは言っていない。それは自信を持って言える。後々この時のことを周囲に相談した時にも確かめたが、僕の言ったことそのものは、指摘されることはなかった。
 だが、言い方というものはあったのではないかと思うし、もう少しティアリィの話にも聞く耳を持つべきだったとも思う。あんな風に一方的に反対するのではなく、宥めるにしても、きっと他にやりようがあった。ましてや、きっと、時期も悪く。僕は後々になって後悔するのだけれど、その時の僕に気づけないまま。
 この時、ティアリィの中で何かが切れたような気がした。どこか諦観を含んだ眼差しに嫌な予感が満ちる。ティアリィは瞳を揺らして、口を開いた。

「同じです。王族の子と言うことは同じ。そもそも殿下。貴方は、本当に、子供を望んでいた・・・・・・・・んですか?」

 ティアリィの言葉に、僕は息を飲んだ。
 何を、言っているのだろう。ティアリィはいったい何を。ティアリィとの子供なんて、そんなもの、そんなもの……望んでいたに決まっている。欲しかった。欲しくて欲しくて、だから注いだ。だって子供は、僕とティアリィを結ぶよすがだ。僕がティアリィを手に入れる為には、絶対に必要な……必要な……。それは、本当に子供を望んでいた・・・・・・・・と言えるのだろうか。
 愕然とする。ティアリィに、そう、疑われたような気がして、やるせなさに顔が歪んだ。おそらくは。そういう側面が、あったことも本当だったから、余計に。

「ティアリィ……君はまさか、本当にそんなことを……」

 どうして。項垂れる。強引に関係を進めた自覚はあった。ティアリィに何も聞かず、求めず、確かめもせず。今、この状況まで推し進めた。好きだと愛を告げて。放さないと手を引いて。拒絶しないでと縋るように手を伸ばした。体を重ねた。決して。彼からの応えなども止めることはせず。強く抗われず、受け入れてくれているのをいいことに、ティアリィの意思を無視して・・・・・・・押し流した。
 ティアリィが一度唇をぎゅっと引き結び、やけに動かしづらそうに唇を動かす。

「……この子は、俺が引き取ります。仕事は今まで通り回るよう手配しますが、俺の執務室と寝室を、別の所に用意させるので……――少し、距離を置きましょう」

 それは。まるで僕には、最後通牒のようにも聞こえた。
 少し、距離を置く。それはいつまで。
 ティアリィが、抱き上げたままの子供を抱える手に力を込める。
 そのまま踵を返し、出口の方へと進んでいく。僕の返事を待たず、僕を見ず、振り返らず。そして最後に、こう告げた。

「殿下。俺は人形じゃありません」

 パタン。扉の音とともに、そのまま部屋を出た彼を、僕は何もできず見送った。
 人形? 人形だなんて、そんなもの。そんな。
 そんなつもりなんてなかった。そんなつもりなんて、本当に。なくて、ただ、僕は。僕は。ただ。
 告げる先のない戸惑いが、僕の中に渦巻いていた。
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