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4・これからの為の覚悟

4-2・満たされない

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 僕ははじめから言っていた。
 子供を成したなら。ティアリィを僕の伴侶とする。それは、僕の周囲も同意してくれていて。加えてティアリィが成した子は過ぎるほど膨大な僕の魔力を核としていて、しかもティアリィは余さず・・・それを子供と成した。
 するとどうなるのか。つまりティアリィを、もうその日から家へは帰せなくなったということだ。
 子供を体内で育てるには魔力がいる。それにはティアリィ本人のものだけでなど足りるはずもなく、僕も可能な限り、ティアリィへと魔力を注ぐ必要が発生した。
 また、僕は腐っても王族で、ティアリィが成したのは間違いなく僕の子だ。それは誰が見ても明らかなほど、ティアリィの腹には僕の魔力しか注がれていない。自然、ティアリィの立場は、書類上だけでも早急に明確にせねばならず、ティアリィもそこは理解していたのだろう、差し出した紙束に躊躇する様子もなくサインしてくれた。
 全てを急いで手配した。念のためにと医師も、ティアリィは結局初めて入ることになった彼自身の部屋の用意も。とは言えだいたいは全部、あらかじめ準備を進めてもいたので、それほど慌ただしい思いをしたわけではない。
 それよりも懸念されたのは、これから子供が落ち着くまでのティアリィの体調だった。
 医師の見立ては一ヶ月。僕もそれぐらいはかかると思う。
 その一か月、おそらくティアリィは体調不良に陥る。主に魔力の欠乏ゆえに。
 子供が育つのに必要な魔力量が多いと、仕方がないことでもあった。同時に、僕がどれだけ彼に、魔力を注ぎ続けられるかが、彼の体調を左右するとも言えて、僕は頭の中でこれから先一か月の予定を組み替えていった。
 周囲への通達や婚姻式・・・は当然、すぐにというわけにもいかず、まずはティアリィの状態が落ち着いてから、余裕をもって、およそ二ヶ月後に婚約式・・・の形で周知して、そこから1年以内、子供が生まれてから改めて婚姻の議を執り行うことと決まった。この辺りはすべてティアリィが臥せっている間に、僕と僕や彼の両親が決めたことで彼には事後承諾となってしまったが、彼はただ頷くだけだった。
 僕が予め告げていたのもあり、僕とティアリィの婚姻に障害はなく、全ては順調に進んでいく。
 ティアリィは現状の事実だけで僕の伴侶となったのだ。
 彼を、手に入れた。
 それは確かだった。なのにどうしても、僕の気持ちが満たされることはなかった。
 ティアリィは拒絶もせず、僕を受け入れてくれていて、にもかかわらず、今となっても、僕を求めてはくれていない。
 僕は彼を、絡めとったに等しい。ほんの少しの作意で、彼を現状に押し込めた。
 僕は正しく現状を理解している。
 だからこそ、どうしても満たされず、ただ、現状をもって自分を慰めるしかなかった。
 それに今、一番重要なのはティアリィだ。
 重篤な魔力欠乏に陥るだろうことが明らかなティアリィを、最優先で気にかけねばならないことは明白で、周囲の認識としても相違はない。
 僕は必死だった。

「ティアリィ」

 彼に手を伸ばし、触れて、抱きしめる。抵抗しないティアリィを貪る。臥せって、意識を失っているような彼にも注ぐ。
 何度も、何度も、尽きるまで。
 しまいには僕の方にまで、魔力欠乏の症状が出てきてしまったのだが、仕方がなかった。
 彼に、触れる。思うさま。
 そこに暗い悦びがなかったかと例えば訊かれたならば。後から思い返してもなかったとは言い切れない自分を、その時にすでに自覚していた。
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