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3・王宮にて

3-6・拒絶されないということ

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 ティアリィは戸惑っていた。僕とのこれまでを思い出してでもいるのだろうか。困惑に揺れる瞳。だけど、どう注意深く窺っても、そこに浮かぶのは戸惑いだけ。僕に対する嫌悪や拒絶などは……――ない。
 ああ、ティアリィ。
 首をふるり、小さく横に振ったティアリィに僕は微笑む。
 本当に心からの笑み。

「君は気付かなかっただろうね。僕は上手く演じられていただろう? アルフェスと君が婚約関係にある限り、君に気付かせないこと。それも条件の一つだったんだよ」

 おそらく僕の熱情の激しさに気付いたのだろう、父が言い出した条件だった。多分、僕の衝動ゆえの暴走を危惧していた。当時は本当に幼かったのに、それでも不安になるほど、父の目に僕は必死に映ったのだろう。正しい判断だと思う。
 それに納得できていたのかというのは別として。

「だけど、今は違う。アルフェスと君の婚約は破棄された。他でもない、君の妹によってね。アルフェスは……あの様子だと、本意ではなかっただろうけど、事前に知っていた・・・・・・・・ようなのに、ルーファ嬢を止められなかった時点で、彼の同意があったと見なしていいだろう。つまり、君は今フリーだ。僕はもう自分を偽らなくていい。堂々と君に好きだと言える」

 とろりと笑んでティアリィに捧げた。これは僕の心の欠片だ。好きで、好きで、好きで。今もずっと焦がれている。欲しくて、欲しくて、欲しくて、触れたくて。
 ああ、ティアリィ。
 ティアリィは動かない。僕を拒絶しない。
 それが決して僕を求めているのではないことはわかっていた。だけど。
 手を伸ばす。ティアリィの手を取った片手とは逆の方で、衝動のまま、ティアリィに触れた。そのまま、ソファの背に押し付けるようにして僕自身の体でティアリィを囲って。ふるり、もう一度横に振られた首、何処かいとけない仕草が可愛い。
 ああ、ティアリィ。
 僕は自分が抑えられない。
 彼に触れている指をそっと、彼の腰の辺りに這わせた。細い。僕とは全然違う、きゃしゃな骨格。

「ティアリィ。僕を、受け止めて。否、拒絶しないでくれるだけでいい。僕の父や母や、君の両親にも、もう話は通してあるんだ。君が頷きさえしてくれればそれで済む」

 つい昨日、多分僕と話す為だろう、口実は母に会う予定があるとのことだったけれど、王宮を訪れたティアリィのお母君とも話が出来ていた。
 そのご母堂も含め皆、渋い顔はしながらも反対はせず。きっと止めても無駄だとでも思っていたのだろう。後はティアリィへの信頼だろうか。ティアリィは、本当に嫌だと思ったなら、僕のことなどどうにでもできるのだから。
 ティアリィが幼い頃から年以上にしっかりしていて、今日で19の成人となるのも大きそうだ。だが、僕に言わせるとティアリィは、こういった方面の免疫はまるでなく、いっそ幼い子供より幼いと思うのだが他の者には違うものが見えているのだろうか。
 学園でも僕がずっとそばにいて、ティアリィによこしまな熱を持って近づくのを許したのなんて名目上は婚約者であり、止めるすべもなかったアルフェスぐらいのものだ。だからティアリィは自身がいかに他者にとって魅力的に映るのか、なんてことにはとびっきりに疎いまま、無垢にここまで来てくれた。
 腰に回した手に力を入れて、ぎゅっと、彼を抱きしめる。細い体は、ちょっと力加減を間違うとすぐにも壊れてしまいそうだった。ああ、なんて儚い。骨格は僕と同じ男の者であるはずなのに、彼はどこもかしこもが何だか危うい。女性よりもいっそたおやかで。
 そんなところも全て美しく、僕の心をとらえて放さなかった。
 どくり、どくり、心臓の鼓動が大きい。これは僕のものだろうか、それとも、ティアリィの?

「ねぇ、ティアリィ。僕に触れられるのは嫌? こうして抱きしめられるのは?」

 耳元で囁く。唇で耳朶に触れると、ティアリィがびくり、体を竦ませた。初心うぶな反応が可愛くて。僕と彼は同じ年で、たった二日しか誕生日も違わないはずなのに、どうして彼はこんなにも純真なのだろう。

「ねぇ、ティアリィ」

 ティアリィからの拒絶はない。ああ。だから僕は。

「ティアリィ」

 微かに開いた震えるような薄赤い彼の唇へと、自身のそれをそっと寄せた。
 ティアリィは拒まなかった。

 ああ。
 ティアリィ。
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