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2・学園でのこと

2-19・僕が待っていた断罪劇①

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 のパーティーに対する仕込み・・・など、そこで少々騒動が起こると事前に必要な相手へと告げるだけで事足りる。
 必要な相手、つまりは学園表や教師、護衛などだ。騒動を起こすルーファ嬢が間違っても咎められたり、捕らえられたりしないように。
 元々あのパーティーは一部の富裕層や貴族にとって社交界デビューも兼ねてはいたが、あくまでも学園内での催しであり、これから先、参加せざるを得なくなる他のパーティーなどの練習のような位置づけとなっている。当然、他のパーティーでも様々な騒動は巻き起こることだろう。とは言え、わが国内ではそんなこと珍しくはあったが、他の国ではその限りではない。
 それを踏まえて、突発的な事象が起こることそのものは忌避されておらず、加えて僕の両親、両陛下や他に代表となりえるような皇族の参加などもなく、自然、パーティー内で一番身分が高く、最終的に責任を負うことになるのは僕となる。
 つまり、僕自身が是としたことなら大抵のことはある程度、何でも許される・・・・・・・ということだ。
 これまで僕の在学中に起こった、様々な騒動と同じように。文化祭や体育祭など、催しごとの際にはいろいろと、普段では決して見ることも叶わない面白いことが起こったものだ。それはともかく。
 ある程度の事前伝達をしていたので、ルーファ嬢は咎められずに済んだ。あのようなごくごく個人的な事情で、内容に見合わないような騒動を起こしても。
 その日、僕はアツコを伴ってパーティー会場へと入場した。
 僕の両親は都合がつかず、かとって弟妹達は、このような場に連れ出すには幼すぎる。ティアリィは紛いなりにも今はまだ婚約者であるアルフェスと、妹のルーファ嬢の二人を同時にエスコートせざるを得ないことになっているらしく、僕は一人になるかと思われたのだが、見かねたアツコが共にと申し出てくれた。
 少し前にアツコを見つけその後護衛となった兵士と結婚したばかりアツコにはつまり、新婚の伴侶がいるのだが、そちらはいいのかと確認すると、これからいくらでも機会はあるし、そもそも僕を一人にすることに難色を示したのはその兵士の方なのだと説明された。職務に忠実な真面目な人なの、という惚気付きだったのに内心少しだけ辟易しつつ、ありがたく厚意を受け取っておく。
 会場内には着飾った見慣れない姿の生徒たち。勿論、ティアリィも、普段の制服姿など比べ物にならないぐらいの盛装を身に着けていて。
 深いブルーのテイルコートは、色みこそ制服と似ているようにも見えたが、生地の光沢や刺繍、装飾などが全然違っていて、金糸や銀糸が織り込まれた縁取りも華やかに彼を彩っていた。クラバットに着けられたピンにあしらわれているブルートパーズが彼の目の色に生えてよく似合っている。
 パーティーは学生が主体であることを考慮され、夕方の早い時間からの開催とはなるのだが、メインは中盤以降のダンスであり舞踏会の括りに含まれるため、ドレスコードは夜会のそれに準じていた。
 従って目に入るのは制服以外ではテイルコートにイブニングドレスばかり。今回が初めてのパーティ参加となるアツコ曰く、彼女の知っている世界でのそれより、男女ともに随分と色にあふれカラフルなのだとか。彼女の言葉通り、会場内は色とりどりの衣装により、まるで花畑のように華やかだ。その中でもひときわ僕の目に留まるのはティアリィなのだけれど。
 まるで輝かんばかりに美しい彼は伏せがちの長い睫毛で頬に濃く影を落とし、銀の髪を靡かせて、会場に入ってすぐに僕の所へと近づいてきた。
 頭の上の方から編み込まれた横髪が、耳の後ろの辺りで控えめに髪留めで止められている。僕にはそんなところまでキラキラと光って見えて。ほうっと、内心で感嘆の息を吐いた。
 数日後に迫る出仕に関して、何か確認したいことでもあるのだろうか、ルーファ嬢やアルフェスは伴っていない。

「やぁ、ティアリィ。見違えたよ」
「殿下も。よくお似合いです」
「ありがとう」

 気安く挨拶を交わし、隣に立つアツコへも視線を流す。彼女もまた、今日の為に誂えられたイブニングドレス姿で、普段から思うと見違えるよう。

「アツコも。よく似合っているよ」
「お世辞はいいわよ。馬子にも衣装とでも言いたいの? そりゃ、王宮の侍女さんたちは優秀ですから? 似合うようには着付けてくれたけど。ガラじゃないことなんて自覚しているわ」
「はは。そんなに自嘲するものでもないと思うけどね」

 肩を竦めるアツコにティアリィは笑って、僕もティアリィに同意した。

「アツコは僕にも同じようなことを言っていたよ。僕も、たまにはこんな格好もいいと思うんだけど……そういう誉め言葉は、例の彼にだけ言ってほしいのかもね」

 新婚でもあることだし。

「ちょっと、殿下?!」

 笑い交じりの僕の言葉に、アツコが控えめに声を上げて、ティアリィも笑って、彼の元々の目的であったのだろういくつかの確認事項について少しばかり確かめ合って、パーティーの開始を告げる主催側の生徒会役員たる後輩たちの様子を見守って、そして。
 しばらくした、頃だった。
 おもむろに会場の中ほどまで、ルーファ嬢が歩み出てきたのは。
 実の所、詳細など何も知らなかった僕は、浮かべていた笑みを崩さないままにそれを見守った。
 緊張を孕んでか、少し険しい顔をしたルーファ嬢はティアリィへと視線を止め、すと目を細める。
 凛とした耳障りのいい声が辺りに響いた。

「お兄様」

 それは、これからのちょっとした騒動の始まりの合図だった。
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