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2・学園でのこと

2-17・ルーファ嬢からの相談

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 僕の作意がそこかしこに散らばっていたことは否定しない。
 だが、何処までを僕が仕込んだことなのかというと、実の所僕はほとんど何もしていなかった。ただ、成り行きに任せただけ。ほんの少し、それらの後押しをしただけ。本当に、一言二言で。
 そもそもが僕やティアリィの卒業記念パーティで、などという案を僕に相談してきたのは、ルーファ嬢の方だったのだ。
 その日は珍しくもわざわざ、ルーファ嬢の方からの呼び出しがあった。ティアリィのいない所で、との指定付きで。
 僕はティアリィが用事で近くにいない時を狙って学園の応接室の一つを抑え、ルーファ嬢にそこではどうかと提案した。頷いたルーファ嬢と、設置されているソファに向かい合って座る。茶の用意はない。

「で、相談っていうのは?」

 早速とばかり水を向けるとルーファ嬢は顔をしかめ、だが、決意を秘めた目をして話し始めた。

「お兄様は、ひどいと思うのです。アルフェス様は婚約者なのに、ずっと蔑ろになさってらして」
「うん、そうだね、君はずっとそう訴えている」

 それにティアリィが応えたことはないけれど。
 話し出しはいつもの繰り言。もう何度もルーファ嬢自身から聞いた言葉だ。

「あれではあまりにアルフェス様がおかわいそうで……だからわたくし、アルフェス様をお助けしたいと思うのです」

 殿下も以前、アルフェス様をお救い出来るのはわたくしだけだとおっしゃって下さっていたでしょう? だからわたくし、考えてみたんですの。

 ああ、いつぞや潜ませた作意のことかと、すぐに思い至る。あの時もルーファ嬢は少し、考えていたようだったっけか。

「お兄様とアルフェス様のご婚約はそもそも、アルフェス様のご家系が代々あまり魔力操作が得意でないものが多く、その所為でなかなか子が成せないものだから、例え生れてすぐであっても、それらが得意であることが明白だったお兄様にお話があったのだとお伺いしております」

 続けられたルーファ嬢の言葉に、僕は正直驚いた。彼らの婚約の理由を、かなり正確に把握している。それはあるいは当人であるティアリィ以上かもしれないほどに。彼は幼い頃からその辺りにはあまり興味がないようだったので。

「わたくし、お兄様ほどではありませんが、魔力操作は苦手ではありませんの」

 ですから、アルフェス様のお相手はお兄様ではなく、わたくしでもいいはずですわ。
 迷いのないルーファ嬢の話に、僕は正直感心している。確かに、ルーファ嬢は振るわない座学に反して、魔力操作は決して苦手ではなかった。僕やティアリィには遠く及ばないまでも、人並み以上ではある。特に、治癒魔術に関してだけは僕たち以上の腕前を持っていた。
 おそらく子供に関してもルーファ嬢であれば、たとえアルフェス相手であっても上手くできることだろう。
 そういう意味では本当に、アルフェスの相手がティアリィである必要は全くない。ただし同時に、ティアリィではいけない理由・・・・・・も、ティアリィの感情以外には何処にもなく。
 だからこそ周囲も皆、本人たちの気持ち次第だと認識しているのだ。

「アルフェス様は最近、悲しそうなお顔ばかりなさってらっしゃいますの。わたくしならきっと、あのようなお顔のままになど、決していたしませんわ」

 もう、全て彼女は自分で決めてしまっているのだろう。何処までも力強いルーファ嬢の言葉には、実の所アルフェスへの恋情など少しも見えなかった。あるのは庇護欲や使命感だろうか。だが。
 僕にとって、本当に都合がいい。彼女の決意に水を差す理由など、僕にはどこにも存在していなかった。だから僕はただ頷く。

「なるほど。頼もしいね」
「殿下ならご賛同・・・下さると思っていましたわ」

 別に賛同はしていないけれども。
 ただ、にっこりと笑みを返した僕に何を見たのだろうか、晴れやかに笑って、更に彼女は話を続けた。

「お兄様ったら、わたくしがいくら言っても、態度を改めてくださいませんの。ですからわたくし、いっそ皆様の前で、お兄様に罪をお認めになって頂こうと考えておりますの」

 ティアリィの罪、とは? そんなものありはしないとは思ったけれど、僕は否定はせずに続きを促す。

「みんなの前?」
「ええ。もうじき、お兄様や殿下は学園を卒業なさいますわよね。卒業後、お兄様は殿下の補佐役として王宮へ出仕することが決まっているとお伺いしております。そうすると、卒業前にと急がねば機会がなくなってしまいますでしょう? でも流石に卒業式ではそんなお話も出来ませんし」

 ですから、
 話しながらルーファ嬢がにっこりと笑った。

「わたくし、卒業記念パーティで。皆様の前で、お兄様にお話・・をしようと思っておりますわ」

 それはどう控え目に考えても。とんでもない提案だと言わざるを得なかった。
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