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2・学園でのこと

2-12・彼らの変化

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 アルフェスの方にも変化があったのは、それから程なくのこと。
 はじめは僕から見ても、あれ? と不審に思う程度。だが、そのうちあからさまに。アルフェスはどうも、ルーファ嬢を頼る・・ようになっているようだった。
 一つ年下の可憐な女の子であるルーファ嬢を、武に優れたアルフェスが、頼る。
 彼ら二人の性格を考えればおかしいとまでは言わないが、違和感は拭い去れない事態だ。
 ルーファ嬢は、少々天然で普段は落ち着いた態度を取るが反面、あれでいて意思ははっきりしている。誰に対してでも物怖じせず、素直に思ったことをそのまま口に出し、迷うことがなかった。
 そういった真っ直ぐさがアルフェスには頼り甲斐があるようにでも映ったのだろうか。否、あまりにティアリィがアルフェスと距離を置こうとばかりするものだから、絶対・・にティアリィからは距離を取ろうとしないルーファ嬢に取りなしてもらおうとでも思ったのかもしれない。
 僕から見ているとアルフェスの、ティアリィに纏わりついて常に近くでいようとしていながら、自分から話しかけるのではなく、あくまでもティアリィの方から行動を示して欲しがるような様子はどうにも煮え切らず、鬱陶しいばかりなのだが、そんなアルフェスをルーファ嬢は可愛らしいと称していたので、彼女の方からアルフェスに接触を持っていったのだろうとは思う。
 それを繰り返すうちにアルフェスの方もおそらく、ルーファ嬢を頼るようになったのだろう。
 そんな自分の行動を情けないと思うこともなく。あれほど体格ばかりは立派に育っていながら、中身は幼子のような稚気を残したまま。
 おそらくティアリィも、自分に好意を求めてさえ来なければ、そんなアルフェスをかわいいと思っていそうではあるのだが、其処はそれ。
 ルーファ嬢の価値観では、アルフェスは気の毒でならないのだろうし、ルーファ嬢は頼られるのを嫌だと思う性質ではない。むしろ頼られるうちによりアルフェスのことが可愛らしく見えてきているのではないかとさえ思う。ならば、と僕は思わずにはいられなかった。
 アルフェスをいっそルーファ嬢に託してしまえばいい・・・・・・・・・と。
 そうすることがきっと一番、僕の理想に近づくのではないかと、そう。
 そんな僕の考えを後押しするように、今もまたアルフェスはルーファ嬢と共にいる。
 何を、話しているのか。アルフェスはひどく情けない顔をしていて、ルーファ嬢は話を聞いているうちに、どんどんと憤っていっているようだった。
 あの様子だとまたティアリィの元へ突撃して来るのだろう。今、これからだろうか。それとも。
 もう、今日の授業は残っておらず、僕も帰路に着こうとしていた所だった。中庭が見える位置にある廊下を通りかかった時、くだんの二人が話し込んでいる様子が見えたのだ。僕は足を止めることなく、見るとはなしに二人を眺め続ける。
 少し職員室に用があったので一人先に生徒会室を出たのだが、おそらく今頃はティアリィもアツコも部屋を後にしている頃だろう。合流は馬車回しの辺りか。今日はティアリィもそのまま王宮に寄る予定になっているので、三人とも乗る馬車は同じだ。
 ルーファ嬢とアルフェスはまだ話を続けるようだし、なら、今すぐにというわけにはいかないだろう。彼女がティアリィを捕まえるより、ティアリィが学園を出る方が多分早い。
 視界の端でルーファ嬢が慰めるようにアルフェスの顔を下からのぞき込んでいる。
 アルフェスはでかい図体を丸めて、気弱な雰囲気を漂わせていて。小さく、首を横に振っていた。
 二人が何を話しているのかまでは、勿論、僕の元へなど届いてこないが、逆に知りたいとも思わない。ああ、でも。
 話題の元はあれかな、今日、午前中の休憩時間にわざわざティアリィのいる教室まで足を運んだアルフェスが、珍しくとてつもない勇気を振り絞った様子でティアリィを買い物に誘っていた。次の休日にと。いつもの、誘ってほしい、誘ってくれと言わんばかりの態度ではなく。
 だが、ティアリィはその日は用があるのだときっぱり断っていただろうか。
 王宮に上がる予定なのだと。それは数日前にあえて詰めたばかりの予定だった。
 最近のティアリィは何かにつけて休日に、予定を空けておきたくないようだったから、僕も少しばかり協力しているのだ。今日、彼が王宮に寄るのもそれに関連してちょっとした確認事項が発生したからだった。
 その時、アルフェスに真偽を問うかのようにこちらに視線を寄越されたが僕は間違いないと保証した。ちなみに疑われたティアリィはもともと害していた気分を余計に害したようで。むっと顔をしかめたティアリィもいつも通り美しく可愛かったけど。
 ああいう所がアルフェスのダメな所なのだ。自分の感情にいっぱいいっぱいで、好意を抱いている相手であるはずのティアリィの様子さえ、ろくに見ていないのだから。
 いずれにせよあの二人の話している内容など、僕にとってどうでもいいと言えばどうでもいい。でも。

「うーん、一度アルフェスとも話すべきか……いや、彼はやっぱり放置かな」

 小さくひとり呟いた。
 僕の目にはアルフェスは。僕が何もしていないにもかかわらず、どんどん自滅していっているようにしか見えなかった。
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