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2・学園でのこと
2-7・結局、全ては、
しおりを挟む「ルーファ嬢とアルフェスとだと、どちらが性質が悪いかな?」
僕はしばし考えてみる。出た結論はどっちもどっち。二人とも大した差などない。少なくとも、ティアリィにとって。
今日もまたティアリィは僕の隣にいない。
一緒にいるのはアツコだけ。
今のように、昼休みの生徒会室では、すでにティアリィがいないことが当たり前になりつつあった。
僕の独り言じみた問いに、アツコはなんと返せばいいのか応えあぐね、眉根を寄せる。
最近はアツコのこんな顔ばかり見ているなぁと思いながら、僕は微笑む。鎧のような笑みは、最近の僕がよく浮かべるそれで、アツコの顔はますますしかめられた。
「ティアリィも大変だよね。アルフェスには付きまとわれて、ルーファ嬢には振り回されて」
そして僕にも振り回されている。
とんだ貧乏くじだ。この国において。彼以上に尊い存在なんていないのに。あの気安すぎる態度が悪いのだろうか。否、やはりだからこその尊さなのだろう。それらが皆、彼の一族の特徴と言ってしまえば、それはそれであながち間違いではないのだから。
「アツコはティアリィがどうして特別なのかを知っている?」
彼自身の持つ特殊性。この国では一番のそれ。
「いいえ、知らないわ」
アツコは首を横に振った。
僕は微笑んで口を開く。
「魔力もあるし、血っていうのも、そうだね」
何せ彼ら兄妹は、僕よりも王族としての血だけなら濃い。
「アツコには教えたよね。この世界には創造神がいる。そして、その創造神の血を継ぐ一族が今も世界には存在していて、僕達王族にもその血は流れている」
この世界自体の成り立ちの話。
異界から来たアツコにはなじみがないだろうそれらは、学園に入る前の早いうちにティアリィと二人で、アツコに教えた話だった。
「ティアリィはとくにその血が強く顕現している。あの、髪色と目の色があらわす通りにね」
銀髪に水色の瞳。限りなく薄い色素。
彼はいつも光を纏って、自身でもキラキラと輝いている。
「でも本当は、彼らの特色はそんなところにはないんだ」
アツコは何も答えず、ただじっと僕の言葉を聞いていた。
ごくり、アツコが一つ、唾を飲んだのが僕にも伝わってくる。
僕は笑みを深めた。にっこりと、笑って。
「本来の、彼らの特色は、その精神性にある。誰よりも高潔で公平。情け深く、利己的で他人に手を差し出すことを躊躇わないお人好し。そして、」
同時に何処までも、寛容で独善的でもあった。
彼らは皆、総じて親しみやすく人との距離が近い。
それでいて彼らの正義の基準は彼らの中にしかなく、そしてこの国の善悪は、彼らの基準に沿って成り立っている。
より、彼らの持つ倫理観に近い感覚を持つ者が正しいとされた。他でもないこの国特有の守護結界がそうと知らせる。あの結界が弾く悪意や害意は、彼ら一族の判断に合致するようにできているのだ。
「ティアリィはこの国で一番彼らの感覚に近い価値観を持っている。まさにティアリィは彼らを体現しているよ」
だからこそ僕にはひどく忌々しい。
ルーファ嬢もアルフェスも、結局は何も悪くはない。彼らに振り回されるのも、ティアリィが好きでやっていることだ。ルーファ嬢に関連する苦情の処理係りだってそう。
あれら全てもティアリィが、あえて選んでそうしている。
本当は他にもやりようがあった。
僕やアツコに手伝えることもあるだろう。否、本当なら。ルーファ嬢を適切に導くべきだったのだ。なのにそうしなかった。可愛い可愛いと甘やかした。あんな独善的な育て方は、ティアリィ以外にはありえない。
そうしていながら、あの結界に、あんな行動を取るにもかかわらず、何も引っかからないように育つなんて。
アルフェスもルーファ嬢も、結界に引っかかったことなど一度もなかった。ティアリィがそう、育てたからだ。彼自身が持つ価値観と倫理を、幼いうちから二人に刷り込んだ。おそらく、ティアリィ自身が無意識のうちに。
「今はまだちょっと様子見だけどね、」
僕だってずっとこのままになんてしない。
決意も新たに笑う僕に、アツコがしかめた顔を緩めることはついぞなかった。
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