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1・幼少期〜学園入学まで
1-2・出会い①
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ティアリィとは、王宮のほぼ真ん中にある中庭の一角にて顔を合わせる予定となっていた。
だけど僕は、その日、付けられていた侍従が教育係を兼ねていない、ただ諾々と僕に付き従うだけの者だったのをいいことに彼の元へはすぐには向かわず、彼の姿が遠めに見える位置にある庭木に登って、しばらく彼を眺めることとした。
僕のその行動が、あまり褒められたものじゃない自覚はあった。人を待たせるのはよくないことだ。
だけど。例えばそうして彼を待たせたなら。いったい何が起こるのだろうと、そんなことを思いついたのだ。どうしてだろう。本当にただの思い付き。
こういう思い付きは、実行する時もあれば、誰にも言いすらしないこともある。この日は実行できたので実行した。
僕は毎日がつまらなくてつまらなくて、何か、面白いことがないかとずっと探し続けていたのだ。結局、何も面白いことなど起きないことが多いのだけれど。
件の木の上に陣取ってすぐ。
遠く、見覚えのある背の高い男性が小さな誰かの手を引いて、中庭へと出てくるのが見えた。
ジルサ公爵だ。相変わらず明るい桃髪が光を弾いていて、ずっと見ているとチカチカして目が痛くなりそうだなと思う。キレイではあるのだけれど。
手を引かれた小さな誰かが彼の息子だろう。同じ年だと聞いているけれど、影だけでも随分と小さく見えた。その小さな誰かは、隣の父親なんて目じゃないぐらい、きらきらと輝いていた。
凄い、眩しい。銀色だ。神々しいほどの輝き。
髪の色が、なるほど銀色だったが、あの眩しさはそれだけが理由ではない。多分、彼のまとっている魔力が。見たこともないほど膨大で美しいから……――。
「凄い……」
知らず、ぽかりと口を開けて、ぼうっと彼を見てしまっていた。
初めて見た、あんな存在。
なんだあれは。神の化身か何かか。否、あながち間違いではないのだろう、そうだ、彼は僕よりも濃く王家の血を引いている。王家の血とはつまり、神の系譜だ。この世界には創造神を祖とする一族が存在する。人であり人にあらず。固有の領土は持たず、しかし彼らが所有を主張した場所や物はたちまち人の手の届かぬものとなる。大陸全土に散らばる理不尽の権化のような彼らは、半面、何もなければその理不尽など行使せず、人に紛れてあらゆる所に血を残した。それは我が王家にも薄く組み込まれ、時折あんな風に彼らの血を濃く体現する存在が生れ落ちる。
恐ろしいほどの銀の輝き。惹かれずにはいられないほどの美しさ。
ああ、なんてことだろう。
僕は直系王族の中では、特に魔力の保有量が多いと言われている。髪の色も、銀とまでは言わずとも、青みがかった灰色で。周りを見る限りでは僕も大概、彼の一族に近いかと思っていたのだけれど。彼を見てしまうと、自分など只人でしかないのだと思い知らされた。
世界は、灰色だった。全てが、つまらなかった。だけどそれらは皆、本当は。彼をより美しく感じるための布石だったのかもしれない。
そんなことまで、思って僕は……――とりあえず、飽きるまで彼を眺めることにしたのだった。
だけど僕は、その日、付けられていた侍従が教育係を兼ねていない、ただ諾々と僕に付き従うだけの者だったのをいいことに彼の元へはすぐには向かわず、彼の姿が遠めに見える位置にある庭木に登って、しばらく彼を眺めることとした。
僕のその行動が、あまり褒められたものじゃない自覚はあった。人を待たせるのはよくないことだ。
だけど。例えばそうして彼を待たせたなら。いったい何が起こるのだろうと、そんなことを思いついたのだ。どうしてだろう。本当にただの思い付き。
こういう思い付きは、実行する時もあれば、誰にも言いすらしないこともある。この日は実行できたので実行した。
僕は毎日がつまらなくてつまらなくて、何か、面白いことがないかとずっと探し続けていたのだ。結局、何も面白いことなど起きないことが多いのだけれど。
件の木の上に陣取ってすぐ。
遠く、見覚えのある背の高い男性が小さな誰かの手を引いて、中庭へと出てくるのが見えた。
ジルサ公爵だ。相変わらず明るい桃髪が光を弾いていて、ずっと見ているとチカチカして目が痛くなりそうだなと思う。キレイではあるのだけれど。
手を引かれた小さな誰かが彼の息子だろう。同じ年だと聞いているけれど、影だけでも随分と小さく見えた。その小さな誰かは、隣の父親なんて目じゃないぐらい、きらきらと輝いていた。
凄い、眩しい。銀色だ。神々しいほどの輝き。
髪の色が、なるほど銀色だったが、あの眩しさはそれだけが理由ではない。多分、彼のまとっている魔力が。見たこともないほど膨大で美しいから……――。
「凄い……」
知らず、ぽかりと口を開けて、ぼうっと彼を見てしまっていた。
初めて見た、あんな存在。
なんだあれは。神の化身か何かか。否、あながち間違いではないのだろう、そうだ、彼は僕よりも濃く王家の血を引いている。王家の血とはつまり、神の系譜だ。この世界には創造神を祖とする一族が存在する。人であり人にあらず。固有の領土は持たず、しかし彼らが所有を主張した場所や物はたちまち人の手の届かぬものとなる。大陸全土に散らばる理不尽の権化のような彼らは、半面、何もなければその理不尽など行使せず、人に紛れてあらゆる所に血を残した。それは我が王家にも薄く組み込まれ、時折あんな風に彼らの血を濃く体現する存在が生れ落ちる。
恐ろしいほどの銀の輝き。惹かれずにはいられないほどの美しさ。
ああ、なんてことだろう。
僕は直系王族の中では、特に魔力の保有量が多いと言われている。髪の色も、銀とまでは言わずとも、青みがかった灰色で。周りを見る限りでは僕も大概、彼の一族に近いかと思っていたのだけれど。彼を見てしまうと、自分など只人でしかないのだと思い知らされた。
世界は、灰色だった。全てが、つまらなかった。だけどそれらは皆、本当は。彼をより美しく感じるための布石だったのかもしれない。
そんなことまで、思って僕は……――とりあえず、飽きるまで彼を眺めることにしたのだった。
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