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37・自分の感情
しおりを挟むいくら人数が多いからと言って、子供の名前さえわからないなんて、母親失格だろう。
だが誰もそんなことで俺を責めたりはしてくれなかった。
こんな事実を辛く感じているのは俺だけなのである。
「レシア様は何もお気になさらなくてよろしいのですよ」
グローディの態度は最初から一貫していて、そう宥めるばかりだし、よく相談に乗ってくれるシェスでさえ、
「あまり気にしすぎないようになさった方がよろしいですよ」
などと言ってくる。通信機越しのティアリィさんまで同じで、だけどいくら周りからそう言われたところで、俺の罪悪感はなくならない。
むしろひどくなる一方だった。
「レシア様」
そう、慈しみをこめて俺を呼ぶグローディのことを、そもそも俺はどう思っているのだろうか。
かっこいいと思う。
毎夜毎朝仕掛けられる行為だって、嫌ではない。どころか気持ちいい。
思い出すと昼間にもずくと腹の奥が疼くほど。
でもそんなのは不誠実だと思うのだ。
行為の快楽に眩んで、グローディ自身を見れていないような気がした。
なら、それ以外のグローディはというと……正直な所、鬱陶しいと思うことがしばしばだった。
今身につけているちっとも着慣れていなかった衣服だって、すでに慣れてしまって一人で着られるし、服も身だしなみも自分で整えられる。
幼児ではないのだ。そもそも、そう言ったことを手助けしてくれる使用人もいるというのに、何故グローディは率先して俺の世話を焼きたがるのか。
椅子にだって一人で座れるし、食事だって自分で摂れる。
グローディの膝の上に抱えられる必要などどこにもなく、食べさせてもらうことにはむしろ抵抗感が拭えない。
それが日常だったのだと言われても、ますます俺とレシアとの違いを意識するばかり。
いったいグローディは俺をどうしたいのか。
そのくせグローディは何もかもを強要するわけではなく、俺が嫌がったら手を引いてはくれるのだ。またすぐに同じ事をしようとはしてくるけれども。
つまり、レシア馬鹿の残念なイケメン、というのが俺のグローディへの評価である。
だけど。
レシアに対する恋着は本物だ。
グローディはレシアを愛している。
それだけは俺にも痛いほどよくわかって。だからこそ俺は、落ち込まずにはいられず、罪悪感は増すばかり。
いっそ罪悪感に押しつぶされ、グローディのことをとっくに真っ直ぐには見られなくなっていた。
自分の感情さえわからない。
ただひたすらに申し訳ないと思うだけで。
この、もうすぐ生まれてくるというお腹の子供のことだって。どうすればいいのかわからなかった。
だが、俺の戸惑いをよそに、無情にも時間は過ぎていく。
俺のお腹の中で育ち切った子供は、そろそろ限界を迎えようとしていた。
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