36 / 49
34・受け取れない献身
しおりを挟むレシアにならなければ。
けど、わかっていてあんな対応など、俺には取れない。
「レシア様。何がお悩みがあるのでしたら、ぜひ私におっしゃってください」
見るからに落ち込んでしまっていたからだろう。グローディが俺の手を取ってそんなことを切々と訴えてきた。
俺はブローディをぼんやりと見つめた。
キレイな顔をしている。美形というのだろうか。とは言え、女性的な所など少しもなく、男らしい雄々しさにあふれている。ため息が出るほどのイケメンで美丈夫だ。
俺、否、レシアは背があまり高くないようで、長身のグローディとは頭一つ分以上の差がある。決して大柄ではなく、細身のティアリィさんでさえ、レシアよりよほど背が高かった。
ティアリィさんのパートナーである前皇帝陛下も、グローディと同じか、少し低いぐらいだったと記憶しているから、レシアの周りで、レシアほど背の低い男性はどうやらいなかったようだった。
レシアは女性並みに小柄なのだ。
そんな見た目だけなら美少年なレシアと並ぶと、きっとグローディとだと誂えたような一対に見えるのだろう。美少年と美男子でお似合いだ。
何もかも、存在そのものがレシアの為にあるかのようなグローディ。
こんなにかっこよくて、キレイで。そしてレシアを愛している。
記憶の中で。レシアは大切にされていた。
グローディに真綿のように包まれ、囲われ、鏡に映るレシアの顔はいつも満ち足りて幸福そうで。
グローディは俺のことも同じように扱う。大切に、大切にそっと触れて、尽くして。
夜に触れられる時は少し強引だけれど、それだって注意深く俺の様子を窺って、快楽を引き出すのに苦心しているように思えた。
気持ちいいことだけを、俺が感じていられるように。
素晴らしい、男なのだ。
少々、いや、かなりレシアに対しては過保護が過ぎるようだけれど、それもレシアを思ってこそ。レシアとしての実感がどうしても持てない俺のこともレシアとして扱って、慈しんでくれている。
だからこそ俺は、言えなかった。
グローディにだけは、言えなかった。だから。
俺は首を横に振る。グローディをそっと見上げて、でもすぐに目を伏せた。
「ううん、なんにも。悩みなんてないんです、ただ、俺、何も覚えてなくて……たくさん、思い出せたこともあるんですけど、でも……」
どうしても、以前のレシアが遠い。
それが気にかかっているというのは嘘ではなかった。
でも全てではない。
グローディはふっと柔らかく息を吐いて、取った俺の手をぎゅっと握った。
あたたかいグローディの手。
そうして初めて自分の指先が、緊張ゆえか少し冷えていたことに気付く。
緊張。していたのだろう、俺は知らず、いつの間にか。
そんな俺の変化に、俺自身より先にグローディが気付いている。
だからこそなのだろう、グローディは俺を安心させるように柔らかく微笑んでいた。
「そのうち、そう言った違和感は気にならなくなりますよ、レシア様。お気になさらなくてよろしいのです。ただ、レシア様は心安らかにお過ごしくださればいい。私がおります。全て私にお任せください」
グローディは誠実に俺に言い募った。
その瞳に宿る愛しさこそが。俺をますます追い詰めるのだと、そんなことには気づかないままに。
俺は曖昧に頷いて微笑んだ。
そうするしか、出来なかった。
30
お気に入りに追加
1,406
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
すれ違い片想い
高嗣水清太
BL
「なぁ、獅郎。吹雪って好きなヤツいるか聞いてねェか?」
ずっと好きだった幼馴染は、無邪気に残酷な言葉を吐いた――。
※六~七年前に二次創作で書いた小説をリメイク、改稿したお話です。
他の短編はノベプラに移行しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる