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31・レシアについて②
しおりを挟むグローディは初めから、何をおいてもレシアを優先した。
「レシア様はお心のままに過ごされればよいのですよ」
そう告げて、本当に何もレシアに強制しなかった。
勿論、教え、導くことや、注意などはする。しかしそれらは全て一方的なものではなく、必ずレシア自身に判断の余地を残すものだった。
例えば、教育係に、
「レシア様、いけません。そう言った場合はこうなさらないと」
などと指示された時に、それまでのレシアなら言われた通りに従っていたが、グローディは違う。同じことを言う時でも、
「レシア様。こういった場合は、こうなさった方がよろしいとされております。レシア様はどうなさりたいですか?」
などという風に、レシアに考えさせ、判断させようとしたのである。
その上、レシアがどんな判断を下し、どんなことをしたがっても、グローディは肯定し続けた。
それがいかに世間一般において非常識とされることであってもだ。
先も言ったように、注意や誘導はあったので、あまりにも良くない判断の場合は、それとなく変更を促したりもしていたようなのだが、そもそもレシアは誰に言われたことであっても、素直に全てをそのまま受け入れるような性質である。
彼が疑問を感じ、何かを訊ねるのは、以前に言われたこととの差異があった時のみ。
状況によって変化しうる対応があることを理解しないので、単一的に同じでないと、行動できなくなるようだった。
レシアはいつしか、自身の疑問を、人に訊ねることを躊躇しなくなっていった。
それまでは周囲に止められて、いけないことだと信じ、自身の考えを口に出来なくなっていたのだが、グローディが根気強く肯定し続けたことで、人に訊ねることに忌避感を抱かなくなれたのである。
弊害はそれに見境がなさ過ぎたこと。
自分の立場も、相手の状況も、時も場合も選べなかったこと。
レシアはそんな柔軟性など持ちえなかったようで、周囲の顰蹙を買うこともしばしばで。
グローディに、呟いている記憶がある。
「どうして皆、俺が何かを言う度に怒るのだろうか」
レシアの声音は、純粋な疑問に満ちて、悲しんでいるだとかいう風ではなかった。
返すグローディの言葉にも、同情やレシアを気の毒に思っているような色はなく。
「そう言った方もいらっしゃるものなのですよ。レシア様は何も気になさる必要はございません」
「そうか。お前が言うのなら、何も問題はないな!」
だからこそレシアはただ首肯し、本当に何も気にせず振舞って。
12以降の記憶の中で、レシアの側にいたのはグローディだけだ。学園に通っている間も、どう考えてもレシアは孤立していた。
レシアは鏡で見ているとつくづく自分でも見惚れてしまうほどに見目麗しく、立場も公国の第一公子である。
近づいてくる有象無象は枚挙に暇なく、だが誰もレシアの側には居続けられない。
護衛らしく、レシアから片時も離れないグローディの存在もあったし、レシアとの、あまりの意思疎通の取れなさに、堪えきれなくなった者もいたのではないかと思う。
勿論、例外は存在したけれど、いずれにせよ孤立していたのは確かで。
「俺は故国で……疎まれていたんですね」
とある夜。
思わずぽつりと、そう吐露してしまったのは、やはりレシアと俺が、違い過ぎるからだったろう。
レシアの記憶は本当に自身の感情を交えないものばかりで、まるで映画か何かを見ているかのよう。だからこそ俺はレシアに同情せずにはいられなかった。
レシアにはグローディだけだったのだ。
グローディしか、いなかった。
「レシア様」
グローディが俺に触れる。
俺を見る眼差しに宿るのは愛しさ。
でも、俺はどうしても思ってしまう。
グローディが本当に愛しく思っているのは、誰なのだろうと、そう。
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