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21・子供たち
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そう言ってもらえたこと自体は、心強く思えた。
突然、あんな場面を見られて。急に色々と話されて。
混乱と躊躇いばかりだったけど、ティアリィさんからは俺を気遣う気持ちが伝わってきた。
それはきっと本物だろう。
何より、俺の伴侶なのだというグローディの母親だというのだから余計に。
あんなにキレイな男の人がお母さん。
なんだかやっぱり実感が湧かない。
「まったく。母様にも困ったものだ。呼ばなくても来て下さるのは、便利ではあるけれど」
「父上、不敬ですよ」
「こんなことぐらいで母様は怒らないよ」
ティアリィさんの影がすっかり見えなくなってから、ぽつり、グローディが呟くのをシェスが窘めている。
と、言うか、敬語じゃないグローディを初めて見た。
昨日からずっと、俺にも敬語だったから。
ぽけっと見つめてしまっていたら、すぐに気付いたグローディは俺に向けてにっこりと笑った。
「申し訳ございません、レシア様。驚かせましたね。急なことでいろいろとお疲れになられたんじゃないですか?」
驚いた。それはいったい何になのだろう。否、全てに驚いてはいるのだけれど。
それよりもシェスに対する態度と違いすぎやしないだろうか。シェスはやれやれと言わんばかりに溜め息を吐いている。
「朝食もまだだというのに慌ただしくて。もうお昼も近いですね」
そう言えば起きてすぐにここに来たから、食事も摂っていなかった。そもそも昨夜も食べた記憶がない。いや、昨夜はあの時点ですでに済ませていたのかもしれないけれど。
グローディの視線が壁に向かったのでそれを追うと、そこにあったのはまるで芸術品のように細かな細工が施された壁掛け時計。
時間は11時半となっている。なるほど、確かにお昼が近い。
異世界と、先程聞いたが、時間の概念は同じなのだなとふと思った。
言葉も違和感なく通じている。日本語では、無いとは思うけれども、昨日目覚めてからこちら、わからない言葉など一つとしてなかった。わかってなお、内容までは理解できなかったが、それはともかくとして。
「少ししたら、皆で揃って食事にしましょう。それまで……そうですね、今更にはなりますが、子供達を紹介しましょうか。あの子たちも、レシア様をお待ちのようです」
グローディが言うように、特に幼い子供たちがそわそわとこちらをうかがっていた。
そうだ、あの子たちは俺の子供なのだ。なら、子供達からしてみると、急に母親がまるで自分たちのことなど知らないような顔をして、近くにも寄れなくなったようなもの。それはどんなにか不安なことだろう。
想像すると罪悪感でいっぱいになって、身動きが取れなくなりそうになった。
いや、そんな場合ではない。だって俺はあの子たちの母親だというのだから。あの子たちの誰の名前も、今はわかりはしないのだけれど。
紹介してくれるというなら、それは勿論、早い方がいいとしか思えなかった。
頷いてグローディを促すと、グローディは微笑んで。
「ではこちらへ」
俺の手を取って、子供たちの方へと歩み寄っていった。
6人の子供たち。
これまで名前を耳にしたのは、一番上のリルセスと、一番下らしいスピ。他の子たちはなんというのだろうか。
この傍らに立つシェスというらしい青年も俺の子供だったんだっけか。なら7人。
他は……。
「何か不安なことでもおありですか? 他の子供たち? 心配なさらなくても、おいおいご紹介いたしますよ。今日はひとまずはこの子たちを」
俺が分かりやすすぎるのか、それともグローディが特殊なのか。俺の心情を的確に言い当てながら、グローディは子供達を呼び集める。
「待たせて申し訳なかったね。お母様はちょっと調子を悪くなさってらっしゃるから、皆、改めて名乗ってみようか。練習も兼ねてね」
グローディが促すと、子供たちはそれぞれ思い思いに顔を見合わせ。
まずはと、リルセスと呼ばれていた一番大きな男の子が一歩前へと進み出てきた。
一度グローディを見て、小さく頷かれたのを確かめてから、その子がやや緊張しながら口を開く。
「グローディジェ・ジルサ・パンレソイ辺境伯が第九子、リスリールセス・カナドゥサ・パンレソイです」
それは堂々として過不足なく、丁寧で行儀のいい名乗りだった。
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