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19・子供の人数
しおりを挟む美少年だった。
そう、少年なのだ。年の頃は15か16か。多く見積もっても18……に見えるか見えないか。
それぐらいの美少年。
「え?! 43……え?!」
今、俺の年齢は43歳だと言っていなかっただろうか。
鏡の中にいるのはどう見ても少年なのだが。これで43? 何かの間違いではないのか。
確かに、ティアレルリィ青年は66歳には見えないし、グローディも48歳には見えない。だが、それでも二人は、成人はしているようには見えるのだ。
それに対して、これはあまりにも。
輝く銀の髪は細くまっすぐで、濃い緑の瞳も、澄んだ輝きを放っている。長い睫毛に、丸い輪郭。ともすれば少女にも見えそうなほど、線の細い美少年だ。
これが、俺だというのか。
まったく実感が湧かなかった。
目を白黒させながら、つい、まじまじと手鏡を見続けてしまっていた俺を見てだろう、向かい側と横から小さな笑い声が聞こえてくる。
笑わないで欲しい。
だってこんなの、信じられない。
俺が機嫌を損ねたのが分かったのだろう、ティアレルリィ青年が軽い調子で謝罪してくれた。
「ごめんね、笑ったりして。でも可愛らしくて。グローディ、前もこんな感じだったっけか」
「いえ、前はもっと混乱してらっしゃいましたね。なかなかいろいろなことを飲み込んで下さらなくて」
「なるほど。じゃあ、今回は大丈夫そうかな」
「そうですね、少なくとも前回よりは」
今回? 前回? わからない話ばかりだ。
頭の中が疑問符でいっぱいの俺に構わず、2人は話し続ける。かと思えば、俺に話を振ってきて。
「レシア君。あの子たちが、君の子供だっていうのは、理解しているのかな?」
「え、あ、はい、なんとなくは……」
あの子たち、と、少し離れたところで遊んでいる子供達を指してそう訊かれ、俺はおずおずと頷いた。
ちゃんと紹介を受けたわけではない。
昨夜気が付いた時以降だと、さっき、この部屋に入ってきた時に顔を合わせただけ。
だけど状況的に、おそらく、俺とグローディの子供なのだろうとは何となく予想していた。
特に今、鏡を見た後だとそれは確信に変わる。
だって、似ている。
6人全員、おおよそはグローディにより似て見えるけれど、それ以外の部分は、先ほど見た鏡の中の美少年にも似た部分があった。
正しく、グローディとあの美少年を混ぜたらああいう子供たちになるのだろうと見てわかる程度には。
あの美少年が俺だというのなら、やはりあの子たちは俺の子供たちなのだろう。
何より昨夜、俺に向かって母様と呼びかけていたし。
俺の年齢が43歳だというのなら、別におかしくはない。見た目はどう考えてもおかしいけれども。
あそこにいる6人。もう一人、今朝増えていた子供はティアレルリィ青年が連れてきたらしいから違うはず。面差しも一人だけ違っているし。
この膨らんだお腹の中の子供も入れると7人か。子沢山すぎやしないだろうか。
年齢も、おそらくは1歳か2歳ずつ開きながらも続けて、なんて。
「君の子供はね、あの子たちだけじゃないんだ。ここに残っているのは、まだ学園に入る前の年齢になる子供達だけ。この国では、特に貴族の子供は13歳になると王都にある帝立学園に入ることが多いからね。学園には寮があって、ここは辺境伯領で王都からは離れているから、君の子供たちの中で学園に通う年齢の子たちは皆そっちにいるんだ。いくらポータルがあるからと言って、毎日ここから通うのは流石に少し現実的じゃないから、仕方がないんだけど」
ティアレルリィ青年の話に、俺は今日、幾度目か、またしても驚くことになった。
子供、達? まだいるというのか。
と、言うか、ポータルとは何だ。そもそもここは辺境だったのか。ああ、でもグローディは昨夜、辺境伯だと自分を指して言っていただろうか。
「学園を卒業した子達は皆、就職したりして自立していると聞いているよ。だからやっぱりここにはいないね。君たちの子供で、一番上の子は、確か……――ああ。ちょうど来たみたいだ」
ティアレルリィ青年の話の途中で、ぱたぱたと誰かの足音が近づいてくるのが分かった。
気付いた彼が話を止めて扉の方へ視線を向ける。
バタン。扉を開けて入ってきたのは、どう見てもグローディによく似た青年だった。
年の頃は20代前半ぐらい。グローディよりは下で、ティアレルリィ青年よりは上に見えた。
濃い銀の髪にやはり濃い緑の瞳。
ああ、瞳の色が鏡の中の美少年と同じだ。つまり、この青年は。
「父上! 母上がまた、記憶をなくされたと……ああ、おばあ様もいらして下さったんですね」
グローディを父と呼び、ティアレルリィ青年のことをおばあ様と呼ぶ。つまり、母上とは俺のことなのだろう。
予想していなかった、大きい子供の登場だった。
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