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18・魔力の影響
しおりを挟む「レシア君。この世界には魔力や魔法があると言ったね。魔力はわかるかい?」
頷いてから首を振る。
魔力があるというのは散々聞いて理解しているつもりだ。だが、わかるかと言われると。
「うーん、手を出してもらってもいいかな?」
「母様、」
「わかっているよ。上手くやるさ」
グローディが控えめに咎めるように呼びかけるのをティアレルリィ青年があしらって、俺にも促しながら自身でも手を差し出してきた。
これを、握ればいいのだろうか。
おずおずとほっそりと指の先まで美しいそれに触れる。
そうするとぎゅっと握られて、触れ合った所からふわり、温かい何かが流れ込んできた。
とは言え、手の先、ほんの少しだけ。
「うわっ……」
思わず感嘆の声を上げると、ティアレルリィ青年がにんまり微笑む。
「わかるかい? これが魔力だ」
わかる。
と、言うより覚えがあった。
ばっとグローディを振り返る。グローディはにこにこと何も変わらない顔で笑い続けている。
昨夜から今朝にかけて、散々グローディから注がれた。否、そう言えばそこに至るまでにも、くちづけや、ましてただ触れるだけでもこのあたたかさは感じられたはず。
「言ったでしょう? 魔力を注がなければならないのだと」
グローディがどこか得意げにそう告げた。
おずおずと頷いた俺を見ながら、ティアレルリィ青年が手を離す。
するとすぐにあたたかさは遠ざかった。
あれが、魔力。
「この世界の人間は、皆、魔力を持っている。今は自覚できていないかもしれないが、もちろん、君もね。で、見た目は、この魔力によって左右されるんだ」
「見た目が、左右される?」
首を傾げる俺に、補足はグローディからもたらされた。
「魔力量が多いと、ほとんど不老に近いんですよ。不死ではありませんし、老化もしますが、それは魔力量の少ない人からするとひどくゆっくりで。寿命が近づいて一気に老け込む人もいるぐらいです。少なくとも、母様は魔力量が多いですから、まだまだしばらくはこのままでしょうね」
本当にファンタジーの世界だなと思った。
「え、じゃあ、グローディも?」
20代後半に見えるのだけれども、見た目通りの年齢ではないのだろうか。
訊ねた俺にグローディはにっこりと頷いた。
「私は今、48歳です」
案の定、見た目にそぐわない年齢を告げられる。
だが。
ティアレルリィ青年に66歳だと言われた時ほどの衝撃ではなかった。
「ちなみに寿命も、魔力量に比例して長い傾向がありますよ。母様ぐらいになると……どれぐらい生きられるんでしょうね?」
「そんなに長くは生きないよ。精々150年ぐらいだろ」
「はは。そんなの、それぐらいには死ぬつもりだってだけの話でしょう?」
「うるさい。それより、随分驚いているようだけど、レシア君、君の見た目だって十分若いからね?」
どうやら寿命も長いらしい。なら、魔力が少ない人はそこまでは生きないということだろうか。そういう人の寿命はどれぐらいなんだろう。俺の認識だと、だいたい人間の寿命なんて、長生きしても100歳ぐらいだったと思うのだけれども、やはりこの世界では違うのだろうか。
グローディとのそんなやり取りの後、続いて俺にも話を向けられる。
「え? 俺の見た目?」
そう言えば、今まで意識したことがなかった。
俺の、見た目? というか、俺の年齢は。
「ああ、君の今の年齢は……」
「43歳ですね」
「だ、そうだよ? と、言うか、グローディ、もしかして……」
「もしかしなくともレシア様は昨夜から一度も、ご自身のお姿をご確認なさってらっしゃいませんね」
「グローディ……」
そうだ。
鏡のようなものを一度も見ていないから、俺は自分の姿さえ知らないのだ。
手が、見覚えがなく、やたらとキレイだということはわかっている。お腹が大きいことも。
「誰か、鏡を」
ティアレルリィ青年の呼びかけに、いつの間に其処にいたのか、使用人のような人が頷いて部屋を出ていった。
程なくしてその使用人のような人が持ってきた手鏡のようなものを受け取ったティアレルリィ青年が、それを俺へと差し出してくる。
躊躇いながら手に取った。
鏡。
なら、そこに映るのは。
覗き込むと、そこにいたのは、やはり初めて見る、驚くほど整った顔をした美少年だった。
え、いや、だから誰?
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