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*6・とろける
しおりを挟む当たり前に俺には逃げるすべなどなく、グローディジェ、否、グローディ?
どっちだ?
俺の名前のことも、レミュシアでレシアだと言っていたか。ならグローディが呼び名なのだろう。目の前のイケメンの名前だ。
ギラついた獣の眼差しで俺を縫い留める。
出会って数時間、否、数十分? 時間の経過もよくわからない。
俺はずっと混乱し続けていて、今もそう。
なのにグローディは俺に触れてくる。
さわ。まずは頬に。
俺にのしかかって、俺の顔の両脇辺りに両肘をついて、片方の手で俺の頬を撫でて、グローディの顔自体も触れそうなほど近くて、そう思った次の瞬間にはちゅっと、唇を啄まれた。
「ん!」
焦点が合わない距離にまで迫ってきたグローディに、思わずぎゅっと瞼を閉じる。
そうすると触れ合った唇の感触が妙な生々しさを持って、俺を支配していった。
触れ合ったのは一瞬。すぐに離れて、だが、またすぐに触れ合った。
ちゅ、ちゅ、と何度も軽く合わさる。
温かで滑らかな唇。男のものとは思えないほど気持ちいい。
そう、信じられないことに気持ちよかった。
「ん、ん、んぅっ……」
何度そうしていただろう、幾度となく触れて、離れて、また触れて。気持ちいい唇の感触を堪能する俺を、やがて少しだけ長く離れたまま男は見下ろし、そろと、うっすら目蓋を押し上げた俺の目をまっすぐに見て、しっかりと目を合わせてから、ふわと微笑んだかと思うと、今度は口ごと全て食らうかのように激しく俺のそれを奪いにかかった。
舌が、すっかり力をなくし、かろうじて閉じられていただけの俺の唇をこじ開けて侵入してくる。ぬると口内を舐められると、知らず俺の体がびくり、震えた。
なんだこの感触は。
グローディの舌が触れたところが全部熱くてふわふわして、滑り込む唾液がまるで媚薬のように、熱を伴った甘さを俺にもたらしてくる。
熱くて、気持ちよくて仕方なかった。
頭の芯が痺れるようなわけのわからない快感だ。
なんだ、これ。
わけがわからない。でも気持ちいい。気持ちいい。
「ん、ぁん、んんっ……ぁ……! もっ……とぉ……! ぁん!」
……俺はいつの間にか、繰り返されるくちづけの合間にそんなことまで強請ってしまっていた。
だって気持ちよくて気持ちよくてもっと欲しくて。
くす。俺の口を食んだまま男が笑う。
「レシア様は……本当に、欲張りでぃらっしゃる……」
囁きは唇がほとんど触れ合ったまま落とされた。
「ぁっ、ぁっ、はぁん……」
同時に吹き込まれた息までもが気持ちよくてたまらなくて、俺の頭はもうとろとろだった。
なんだこれなんだこれなんだこれ???
この男とはさっき初めて会った、少なくとも俺の認識ではそうだ。
だって俺は何も知らない。
この男のことも、俺自身のことさえも。
さっきの今でこんな風に触れ合って、なのに気持ちよくて堪らなくて。
いったい何がどうしてこんな。こんな。こんな……!
でも。
とんでもなく気持ちよくて、もっと欲しくて。
「ん、ん、ぅむぅ……ん! ぁ! んんっ……ん!」
俺はグローディのくちづけに酔い切って、与えられる気持ちよさを思うさま貪ってしまっている。痺れた頭のまま、ただただ気持ちよさだけを感じて、もっと欲しくて、欲しくて。
それこそ、いつの間にか乱されていた服にも気づかないほど、グローディからのくちづけに虜になっていたのだった。
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