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4・混乱と確認
しおりを挟む混乱する俺の手をイケメンがそっと握ってくる。
温かい手だった。だが男らしく骨ばっていて硬い。反して、目に入る俺自身の手はすんなりとして細く、見る限り柔らかそうだった。
形のいい手だと思う。
自分の、手だろうとはわかるのだけど、やはり見覚えがなく、なんだか妙な違和感が付きまとった。
俺の手は、果たしてこんな形をしていただろうか。
だが、俺自身に繋がっていて、どうやら俺の意のままに動くようなのだから、俺の手のはずなのだ。
イケメンの眼差しは、わからないことだらけの俺をまるで大切に包み込むかのような慈しみに満ちていた。
見るだけで、相手のことを愛しいと思っているのが分かる。その対象が俺らしいというのは確かだった。
こんなもの間違えようがない。
イケメンが形のいい口を開いた。ゆっくりと。噛んで含めるように俺へと語りかけてくる。
「混乱なさってらっしゃるようですね。大丈夫、大丈夫ですから、落ち着いて聞いてください。あなたのお名前はレシア様です。もしかしたら違和感を覚えられるかもしれませんが、今のあなたのお名前はそれしかございません。正しくはレミュシア・カナドゥサ・パンレソイ。私、グローディジェ・ジルサ・パンレソイの伴侶で、私は辺境伯の爵位を賜っていますので、レシア様は辺境伯夫人となります」
イケメン……今、グローディジェと言っただろうか、グローディジェの言葉は明白でとても聞き取りやすかった。それこそ、聞き間違えなどしそうもないぐらいに。だが同時に全く意味が解らない。
辺境伯? 辺境伯夫人? 伴侶?
爵位と言っただろうか。つまり貴族なのか。つまり俺も貴族? え? 俺が?
夫人で伴侶だというからにはそうなのだろうとは思う。思うが、まったく実感がわかない。
そもそもがまた繰り返された、伴侶だ。
伴侶ということは、結婚しているということだろう? 俺を夫人というのならグローディジェは旦那という解釈であっているはず。
男の俺が夫人? グローディジェもどう見ても男なのに。
「上手く呑み込めませんか? ですが早急に理解して頂かなくては」
グローディジェは、俺を大切に慈しむような眼差しを向けてきておきながら、俺の混乱が落ち着くのを待つつもりは微塵もないようだった。
「貴方の認識が今、どのようになっていたとしても、貴方と私が伴侶であることは違えようもない事実です。それをまずは受け入れて下さい。そしてこれは重要なことなのですが、貴方は今、私の子供をその身に宿しています。ほら、ここに。大切に抱えて下さっている。今も」
そうして示されたのは、俺の大きく突き出た腹だった。
まるで妊婦のようだと思ったのは、そのまま間違いではなかったらしい。
認めたくない現実に眉根が寄る。
俺は男だ。そのはず。先程出した声も低かったし、胸もない。手だって、すんなりと細くはあっても、女性のものではなかった。
下肢まで今は確認できていないけれど、無くなっているだなんて思いたくない。
すぐに確認したくなったが同時に確認するのが怖くもあった。
確認して、もし、無かったらと思うと。一瞬、咄嗟に伸びそうになった自分の手を躊躇って止めるぐらいに。
だが、気付いたグローディジェが笑って。
「ああ、気になりますか? 大丈夫、貴方はちゃんと男性ですよ」
そう言いながら掴んだままだった俺の手を俺自身の股間へと導く。突き出た腹が邪魔でなんだか微妙に触れづらくはあったが、服の上からでも、俺自身の象徴がなくなっているわけではないことが分かった。
それにほっと安堵した俺を見て、グローディジェは今度は声を立てて笑う。
イケメンは笑ってもイケメンだ。なんだか逆に腹立たしい。
「すみません、笑ってしまって。ああ、機嫌を損ねないでください。貴方は男性ですし、でも私の子供を宿して下さっているのも本当です。もう臨月も近い。大きく膨らんだお腹がその証拠で、だからこそ私は貴方をお待ちすることが出来ない」
グローディジェの話は何処までもわけがわからなかった。
男なのに妊娠しているということだけでも受け入れがたいのに、待てないとはどういう意味だろうか。
「この世界では、男女関係なく子を宿すことが出来るのです。だから貴方も男の身のまま、私の子をそのお腹に宿して下さっている。そしてその子供を育てるために必要なのは私の魔力です。ですから私は貴方の中に、私の魔力を注がねばなりません」
グローディジェはにこやかなまま、やはり、俺には理解できないようなことを、そう、はっきりと言い切ったのだった。
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