上 下
6 / 49

4・混乱と確認

しおりを挟む

 混乱する俺の手をイケメンがそっと握ってくる。
 温かい手だった。だが男らしく骨ばっていて硬い。反して、目に入る俺自身の手はすんなりとして細く、見る限り柔らかそうだった。
 形のいい手だと思う。
 自分の、手だろうとはわかるのだけど、やはり見覚えがなく、なんだか妙な違和感が付きまとった。
 俺の手は、果たしてこんな形をしていただろうか。
 だが、俺自身に繋がっていて、どうやら俺の意のままに動くようなのだから、俺の手のはずなのだ。
 イケメンの眼差しは、わからないことだらけの俺をまるで大切に包み込むかのような慈しみに満ちていた。
 見るだけで、相手のことを愛しいと思っているのが分かる。その対象が俺らしいというのは確かだった。
 こんなもの間違えようがない。
 イケメンが形のいい口を開いた。ゆっくりと。噛んで含めるように俺へと語りかけてくる。

「混乱なさってらっしゃるようですね。大丈夫、大丈夫ですから、落ち着いて聞いてください。あなたのお名前はレシア様です。もしかしたら違和感を覚えられるかもしれませんが、今のあなたのお名前はそれしかございません。正しくはレミュシア・カナドゥサ・パンレソイ。私、グローディジェ・ジルサ・パンレソイの伴侶で、私は辺境伯の爵位を賜っていますので、レシア様は辺境伯夫人・・となります」

 イケメン……今、グローディジェと言っただろうか、グローディジェの言葉は明白でとても聞き取りやすかった。それこそ、聞き間違えなどしそうもないぐらいに。だが同時に全く意味が解らない。
 辺境伯? 辺境伯夫人? 伴侶?
 爵位と言っただろうか。つまり貴族なのか。つまり俺も貴族? え? 俺が?
 夫人で伴侶だというからにはそうなのだろうとは思う。思うが、まったく実感がわかない。
 そもそもがまた繰り返された、伴侶だ。
 伴侶ということは、結婚しているということだろう? 俺を夫人というのならグローディジェは旦那という解釈であっているはず。
 男の俺が夫人? グローディジェもどう見ても男なのに。

「上手く呑み込めませんか? ですが早急に理解して頂かなくては」

 グローディジェは、俺を大切に慈しむような眼差しを向けてきておきながら、俺の混乱が落ち着くのを待つつもりは微塵もないようだった。

「貴方の認識・・が今、どのようになっていたとしても、貴方と私が伴侶であることは違えようもない事実です。それをまずは受け入れて下さい。そしてこれは重要なことなのですが、貴方は今、私の子供をその身に宿しています。ほら、ここ・・に。大切に抱えて下さっている。今も」

 そうして示されたのは、俺の大きく突き出た腹だった。
 まるで妊婦のようだと思ったのは、そのまま間違いではなかったらしい。
 認めたくない現実に眉根が寄る。
 俺は男だ。そのはず。先程出した声も低かったし、胸もない。手だって、すんなりと細くはあっても、女性のものではなかった。
 下肢まで今は確認できていないけれど、無くなっているだなんて思いたくない。
 すぐに確認したくなったが同時に確認するのが怖くもあった。
 確認して、もし、無かったらと思うと。一瞬、咄嗟に伸びそうになった自分の手を躊躇って止めるぐらいに。
 だが、気付いたグローディジェが笑って。

「ああ、気になりますか? 大丈夫、貴方はちゃんと男性ですよ」

 そう言いながら掴んだままだった俺の手を俺自身の股間へと導く。突き出た腹が邪魔でなんだか微妙に触れづらくはあったが、服の上からでも、俺自身の象徴がなくなっているわけではないことが分かった。
 それにほっと安堵した俺を見て、グローディジェは今度は声を立てて笑う。
 イケメンは笑ってもイケメンだ。なんだか逆に腹立たしい。

「すみません、笑ってしまって。ああ、機嫌を損ねないでください。貴方は男性ですし、でも私の子供を宿して下さっているのも本当です。もう臨月も近い。大きく膨らんだお腹がその証拠で、だからこそ私は貴方をお待ちすることが出来ない・・・・・・・・・・・・

 グローディジェの話は何処までもわけがわからなかった。
 男なのに妊娠しているということだけでも受け入れがたいのに、待てないとはどういう意味だろうか。

この世界・・・・では、男女関係なく子を宿すことが出来るのです。だから貴方も男の身のまま、私の子をそのお腹に宿して下さっている。そしてその子供を育てるために必要なのは私の魔力です。ですから私は貴方の中・・・・に、私の魔力を注がねばなりません・・・・・・・・・・・・・・

 グローディジェはにこやかなまま、やはり、俺には理解できないようなことを、そう、はっきりと言い切ったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

すれ違い片想い

高嗣水清太
BL
「なぁ、獅郎。吹雪って好きなヤツいるか聞いてねェか?」  ずっと好きだった幼馴染は、無邪気に残酷な言葉を吐いた――。 ※六~七年前に二次創作で書いた小説をリメイク、改稿したお話です。 他の短編はノベプラに移行しました。

処理中です...