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2・わからない
しおりを挟む時間は少しさかのぼる。ほんの数時間だけ。
今から数時間前。俺ははたと気が付いた。
我に返った、あるいは正気に返ったとでも言えばいいのだろうか。
目が覚めた、と言ってもいいのかもしれない。
俺は見知らぬ子供に見上げられ、
「かあたま?」
なんて舌足らずに呼ばれていたのだ。
わけがわからず目を瞬かせた。
誰だ、この子は。
これが、その時の俺の正直な感想。
次いで、俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう、やはり耳慣れない声が隣から聞こえてくる。
「レシア様?」
聞いたこともない誰かの名を呼んで、覗き込まれたのは俺だった。
パチリ、瞬く。
俺をのぞき込んでいるのは、とんでもない美丈夫だったからだ。
こんなイケメン、見たことがないというほどのイケメン。
マンガやアニメでもめったに見ることもないだろう美形だ。
濃い灰色の髪と、真っ青な目は澄んで、心配そうに俺を見つめている。
俺は思わずその美形に見惚れていた。
なんてかっこいいんだろう。だけど。
「レシア様?」
「お母様?」
俺の顔をのぞき込んでいる美形と、更に片方からは袖を引かれ、もう片方からは呼びかけられた。
俺の膝の上で、やはり俺を見つめたままの幼子より、いくらかしっかりした、だが幼児の声で、幼子と同じ呼びかけられ方をする。
お母様? 誰のことだ。まさか俺か。俺は男なのだが。
改めて周囲を見渡すと、俺は膝の上に二つにもなっていなさそうな小さな子供を乗せていて、更に両脇に、それよりは少し大きめの子供たち。
で、その小さい方の更に横に、俺をのぞき込んできている美丈夫が座っていて、対面のソファにはあと三人子供がいた。
俺の膝の上と両脇の子供達よりも大きい子供達だ。
同じぐらいのサイズの子は一人としておらず、皆年齢がバラバラなのだろうと思われた。
一番上は……いくつだろうか。10歳ぐらいに見える。対面のソファの真ん中に座っていた。
一番小さいのが膝の上の幼子。
なんだこの状況は。
わけがわからない。
あまりにわけがわからなさすぎて、混乱ゆえか泣きそうになる。自分の眉尻が情けなく下がっているだろうことを自覚した。
そんな俺の様子に、美丈夫がはと何かに気付いたように目を見開いた。
驚き顔までかっこいいとかなんだそれ反則だろう。
「まさかレシア様、また……、」
そうして俺の両肩が、美丈夫によって掴まれた。
痛くはない。だが、有無を言わさぬ力で美丈夫の方へ向き直させられる。つまり左横だ。
間に挟まれた子供が実を縮こまらせているのにも構わず、美丈夫は俺としっかり、目を合わせてきた。
「レシア様、一つだけお答えください。私の名前を言えますか?」
俺はふるり、首を横に振る。力なく。
わからなかった。
そもそも、さっきから俺を呼んでいるようだが、レシアって誰だ。
まさか俺の名前なのか?
それさえわからない。
ましてや、目の前の初めて見る男の名前など、わかるはずがなかった。
「レシア様……」
形のいい男の眉がぎゅっとやるせなく顰められる。
あまりに気の毒で俺までやるせなさい気分にならざるを得なかった。
だけどわからない、わからないのだ。
俺には何もわからなかった。
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