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51・真っ黒い荒野①
しおりを挟む辺りは暗い。
夜なのだろうかと思ったが、それにしては違和感を覚えた。
違和感の正体はすぐにわかる。
見えるのだ。
通常、これほどまでに暗ければ、少なからず物の輪郭が曖昧になるはず。
そこまではいかずとも、見えづらく思わなければおかしい。
勿論、夜目が効く効かないなどがあるとは言え、昼と同じように見えるわけがないのは当たり前の話だった。なのに。
僕はどうやらホセに、横抱きに抱き上げられているらしかった。
ホセはそのまま歩いているらしい。
重いだろうに大丈夫なのだろうかと心配になる。
とは言え、こうして運んでもらったことがないわけではなく、また、ホセの腕は力強く、不安定だとか言うことは全くなかった。
つまり、僕の一番近くにいるのはホセだということになるのだが、そのホセの姿に、よく見えないと思う所がない。
いつも通りの褪せた金の髪と浅黒い肌。
いつも通りではないのは、いつもよりもずっと全身が毛でおおわれているように見え、また、顔の輪郭なども鼻先が前に突き出ていたりして獣に近く、耳が頭頂部、やや後ろよりについているところだろうか。
獣人。そう呼ぶに相応しい姿だ。間違ってもただの人間には見えない。
だけど髪の毛の色も、こちらを気遣わしげに見降ろしてくる、緑がかった紺色の瞳も、腕の感触、服越しのぬくもりだって、間違えようもないホセのもの。
そんな風に、薄暗い中にあるはずなのに、色まではっきりと判別できるのである。
きょろと辺りを見回した。
何かの影になっているのだろうか、と思った通り、上方にあったのは巨大な爬虫類の腹部。
おそらくフォル――……赤竜のものなのだろう。
どうやら彼の腹の下、あるいは足と足の間辺りを、ホセは僕を抱えて歩いているらしい。
傍らにはシズが、寄り添うように歩調を合わせていて、
逆隣りにはネアがいた。
大きな体を折り曲げるように屈めている。
彼らのことも見えづらいなどと言うことは一切なく、そして彼らの向こう側、垣間見えた景色は黒く。ごつごつとした岩場のようになっていて。
なんとなく不気味さを感じ眉根を寄せた。
すり、知らずホセにすり寄ってしまっていたらしい。
僕を抱えるホセの腕に力がこもる。
「? デュニナ? 大丈夫か?」
うかがうように尋ねられ、僕は曖昧に頷いた。
「ええ、大丈夫です。なんでもありません。すみません、ただちょっと、景色が……」
「景色?」
「ええ。その……ここは、どこなのかな、と思って」
何故なら視界を遮るような彼らの向こう側。
広がっているのは当然初めて目にする、どうやら、ただひたすらに黒い大地のようだったのである。
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