上 下
51 / 58

51・真っ黒い荒野①

しおりを挟む

 辺りは暗い。
 夜なのだろうかと思ったが、それにしては違和感を覚えた。
 違和感の正体はすぐにわかる。
 見えるのだ。
 通常、これほどまでに暗ければ、少なからず物の輪郭が曖昧になるはず。
 そこまではいかずとも、見えづらく思わなければおかしい。
 勿論、夜目が効く効かないなどがあるとは言え、昼と同じように見えるわけがないのは当たり前の話だった。なのに。
 僕はどうやらホセに、横抱きに抱き上げられているらしかった。
 ホセはそのまま歩いているらしい。
 重いだろうに大丈夫なのだろうかと心配になる。
 とは言え、こうして運んでもらったことがないわけではなく、また、ホセの腕は力強く、不安定だとか言うことは全くなかった。
 つまり、僕の一番近くにいるのはホセだということになるのだが、そのホセの姿に、よく見えないと思う所がない。
 いつも通りの褪せた金の髪と浅黒い肌。
 いつも通りではないのは、いつもよりもずっと全身が毛でおおわれているように見え、また、顔の輪郭なども鼻先が前に突き出ていたりして獣に近く、耳が頭頂部、やや後ろよりについているところだろうか。
 獣人。そう呼ぶに相応しい姿だ。間違ってもただの人間には見えない。
 だけど髪の毛の色も、こちらを気遣わしげに見降ろしてくる、緑がかった紺色の瞳も、腕の感触、服越しのぬくもりだって、間違えようもないホセのもの。
 そんな風に、薄暗い中にあるはずなのに、色まではっきりと判別できるのである。
 きょろと辺りを見回した。
 何かの影になっているのだろうか、と思った通り、上方にあったのは巨大な爬虫類の腹部。
 おそらくフォル――……赤竜のものなのだろう。
 どうやら彼の腹の下、あるいは足と足の間辺りを、ホセは僕を抱えて歩いているらしい。
 傍らにはシズが、寄り添うように歩調を合わせていて、
 逆隣りにはネアがいた。
 大きな体を折り曲げるように屈めている。
 彼らのことも見えづらいなどと言うことは一切なく、そして彼らの向こう側、垣間見えた景色は黒く。ごつごつとした岩場のようになっていて。
 なんとなく不気味さを感じ眉根を寄せた。
 すり、知らずホセにすり寄ってしまっていたらしい。
 僕を抱えるホセの腕に力がこもる。

「? デュニナ? 大丈夫か?」

 うかがうように尋ねられ、僕は曖昧に頷いた。

「ええ、大丈夫です。なんでもありません。すみません、ただちょっと、景色が……」
「景色?」
「ええ。その……ここは、どこなのかな、と思って」

 何故なら視界を遮るような彼らの向こう側。
 広がっているのは当然初めて目にする、どうやら、ただひたすらに黒い大地のようだったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...