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50・枯れた喉と喧騒
しおりを挟む次に目が覚めた時には、まぶたを押し上げることが出来た。
だけど、目を開けた、はずなのに薄暗い。
振動を感じる。
何かに運ばれてでもいるのか、ゆらゆらとした揺れ、心地よいぬくもり。
慣れた体温と匂いに、自分が今どんな状態なのかすぐに気付く。
辺りを満たす番の匂い。
それに、このあたたかさは。
「ここは……」
掠れた声で呟いた。
「ん? 起きたのか? よかった……。おい、デュニナが目覚めたぞ」
「え、なんだって? 今度こそ本当だろうね?」
「どういう意味だっ!」
「ああ、神人殿。よかった。気分はどう? 痛い所とか苦しい所とかはない?」
予想通り僕を運んでくれていたらしいホセが、誰に向かってなのか声をかけると、ぐっと視界が更に暗くなり、次いで目に入ってきたのは大きな目玉。
多分、これは――……一度だけ目にしたことがある、フォルの本来の姿を思わしき赤竜のもの。
相変わらず耳に届くのではない声で、ホセに対してだろう、からかうような言葉をかけ、なのに反応したホセには構わず、僕へと気遣わしげに話しかけてきた。
僕は何にもついていけず、目を白黒させながらぎこちなく頷く。
「だ、大丈夫、です……」
多分。
少なくとも自覚できる範囲で、どこかが痛かったり苦しかったりなどしていない。
ああ、でも声が少し掠れている。
「デュニナ。これを。飲むといい」
そんな僕に気付いたのだろう、どこからかにゅっと、飲み物が入っているらしい水筒のようなものを差し出してきたのはシズ。
「あ、ありがとうございます……」
ありがたくそれを受け取った僕は口を付け、こくと一つ喉を鳴らした。
体中へと染みわたるよう、口の中へと入ってきたのは、いつも、フォルの屋敷で出されていた果実水。
それもびくと体を揺らしてしまうぐらいには冷たい。
「神人殿が目を覚まされたのでしたら……どうしましょう、いったん止まりますか?」
「うぅーん。いや、このまま進もう。ホセも。まさか疲れたなんて言わないね? なんだったら変わってあげてもいいんだけど」
「それこそまさかだな。少なくともあんたにはデュニナを託さねぇよ」
ネアと何事か相談し合ったかと思えば、フォルは僕を抱えたままのホセへとどこかからかうような声で言葉をかけ、ホセはホセで嫌そうに返事を返していた。
意外なほど、少しだけ乱暴な態度。
ホセのそんな様子を初めて目にした僕は、ただただ驚いて、目をぱちぱちと瞬かせるばかり。
「デュニナ、もうよいのなら水筒を」
「え? あ、はいっ、あ、りがとう、ございます……」
受け取ろうと差し出されたシズの手に、おとなしく、手に持ったままだった水筒を返した。
掠れていた喉はすっかり潤って、今は何処にも不調を感じない。
それにしても、いったい今はどういう状況なのか。
何もわからないままなことに変わりはなかった。
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