上 下
50 / 58

50・枯れた喉と喧騒

しおりを挟む

 次に目が覚めた時には、まぶたを押し上げることが出来た。
 だけど、目を開けた、はずなのに薄暗い。
 振動を感じる。
 何かに運ばれてでもいるのか、ゆらゆらとした揺れ、心地よいぬくもり。
 慣れた体温と匂いに、自分が今どんな状態なのかすぐに気付く。
 辺りを満たすつがいの匂い。
 それに、このあたたかさは。

「ここは……」

 掠れた声で呟いた。

「ん? 起きたのか? よかった……。おい、デュニナが目覚めたぞ」
「え、なんだって? 今度こそ本当だろうね?」
「どういう意味だっ!」
「ああ、神人殿。よかった。気分はどう? 痛い所とか苦しい所とかはない?」

 予想通り僕を運んでくれていたらしいホセが、誰に向かってなのか声をかけると、ぐっと視界が更に暗くなり、次いで目に入ってきたのは大きな目玉。
 多分、これは――……一度だけ目にしたことがある、フォルの本来の姿を思わしき赤竜のもの。
 相変わらず耳に届くのではない声で、ホセに対してだろう、からかうような言葉をかけ、なのに反応したホセには構わず、僕へと気遣わしげに話しかけてきた。
 僕は何にもついていけず、目を白黒させながらぎこちなく頷く。

「だ、大丈夫、です……」

 多分。
 少なくとも自覚できる範囲で、どこかが痛かったり苦しかったりなどしていない。
 ああ、でも声が少し掠れている。

「デュニナ。これを。飲むといい」

 そんな僕に気付いたのだろう、どこからかにゅっと、飲み物が入っているらしい水筒のようなものを差し出してきたのはシズ。

「あ、ありがとうございます……」

 ありがたくそれを受け取った僕は口を付け、こくと一つ喉を鳴らした。
 体中へと染みわたるよう、口の中へと入ってきたのは、いつも、フォルの屋敷で出されていた果実水。
 それもびくと体を揺らしてしまうぐらいには冷たい。

「神人殿が目を覚まされたのでしたら……どうしましょう、いったん止まりますか?」
「うぅーん。いや、このまま進もう。ホセも。まさか疲れたなんて言わないね? なんだったら変わってあげてもいいんだけど」
「それこそまさかだな。少なくともあんたにはデュニナを託さねぇよ」

 ネアと何事か相談し合ったかと思えば、フォルは僕を抱えたままのホセへとどこかからかうような声で言葉をかけ、ホセはホセで嫌そうに返事を返していた。
 意外なほど、少しだけ乱暴な態度。
 ホセのそんな様子を初めて目にした僕は、ただただ驚いて、目をぱちぱちと瞬かせるばかり。

「デュニナ、もうよいのなら水筒を」
「え? あ、はいっ、あ、りがとう、ございます……」

 受け取ろうと差し出されたシズの手に、おとなしく、手に持ったままだった水筒を返した。
 掠れていた喉はすっかり潤って、今は何処にも不調を感じない。
 それにしても、いったい今はどういう状況なのか。
 何もわからないままなことに変わりはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...