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48・落下
しおりを挟むそのまま、川に沿って歩き始めてしばらく。
それほども歩かないうちに、
「もうすぐ着く。そこの茂みを抜けたらすぐだ」
と、シズがすぐ前方に見えている茂みを指さした。
頷いた僕はおとなしく足を進め続ける。
ホセが変わらず、支えるように寄り添ってくれていた。
がさ、シズとホセがかき分けてくれるのに甘えて、茂みを抜けて、否、抜けようとして、そして――……。
「……――神人殿っ!」
気が付けば僕はさっと抱き上げられていた。
「うわっ!」
驚いた僕に構わないとばかりに、抱え上げた腕にぎゅっと力を入れられる。
「え、え、あれ?」
そんな風に僕を抱え上げていたのはフォルだ。
僕よりも小さな体躯なのに、どうしてこんなにも逞しいのか。
「え? あれ? フォルさん?」
「そうだよ、貴方のフォルだ。ああ、神人殿、無事でよかった。心配していたんだ。ホセが付いていって、シズが先行していたとはいえ、何があるかわからなかったからね。何せここは僕たちの権威の届かない異界。神人である貴方なら問題はないのだろうけれど、僕達では大きく制限がかかってしまう。その証拠に、そこな獣など、人型すら取れない有様だろう?」
そういうフォルも、よく見れば赤竜を連想させる耳や角、尻尾が生えている。
「あはは。気が付いてしまった? そう、僕もこれ以上は難しくて」
僕がそれを気にしたのがわかったのだろう、それらは消せないのだと、力なくフォルは笑った。
「ま、そこな獣よりましさ。そいつは言葉さえろくに話せていなかっただろう? あの姿じゃ声帯が違うからね。言葉が話せなくなってしまうのさ」
なるほど、ホセが金色の獣となってから、一言も話していなかったのはそういった理由であったらしい。
あれ? なら、夢うつつ、シズと話していたように思ったのはいったい何だったのだろう。
少し不思議に思ったが、口に出すほどのことでもないかと言葉にはしなかった。
「ともあれ、合流出来てよかったよ。ほら、そこにネアもいる。僕達がいればもう大丈夫だ。安心していい、神人殿」
そう、力強く微笑んだフォルは、ようやく僕を地面へと下ろしてくれた。
否、下ろしてくれようとした、が、しかし。
「そのまま」
それを止めたのはシズだった。
「そのまま、フォルはデュニナを抱えていろ。先程、強い干渉を受けた。多分まだ近くにいる、否、今も俺達を見ているかもしれない」
「え?」
「何? それは本当か。ネア、もっと近くへ。ホセも!」
シズが言って、触れるほど近くへと僕たちに身を寄せてくる。
ホセは元々僕のすぐ傍にいるまま、つまり、フォルに抱えられている今は、フォルの近くでもあるということ。
フォルの言う通り、どうやらフォルと共にいたらしい、少し離れていたネアものそっとこちらへと近づいてきた。
と、ほとんど同時に、ぐにゃと、辺りの景色が撓んでいく。
ああ、あの、庭から落ちた時と同じ。
「ああ、くそっ、言った傍からかっ! シズの言う通り、抱えたままで正解だったなっ! 神人殿! 私にしっかり捕まっていて!」
「え? あっ!」
促され、反射的に僕は腹の少し上ぐらいにあったフォルの頭に抱え込むようにしてしがみついていた。
地面が撓む。辺りが歪む。
絶えず聞こえ続けていたはずの川の音が聞こえない。
視界にあったはずの濃い緑の森の木々がぐんにゃりと折れ曲がって、そして。
落ちる。
思うと同時、
「え? あ、ぁああ……っ!」
ぶつん。
意識は闇に閉ざされた。
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