【完結】僕は番を探してる。〜放浪妊夫は愛に惑う〜

愛早さくら

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42・溶ける意識

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 先程まで横になっていた場所に横になった。
 金色の獣が変わらず寄り添うように横たわる。
 こんな狭い場所で、こんな大きな体をしているのに器用なものだな、とりとめもなくそう思った。
 僕を守るよう、囲うようくるんと覆いかぶさってくる柔らかな毛並み。
 上手く調整されているのだろう、重かったりだとかいうことは全くない。
 ただひたすらに温かく、また、僕を安心させるつがいの匂いに満ちていて。
 ああ、そう言えば。
 あの、夢の中、ホセとシズが話していたような気がする。
 なら、なぜ今話さないのだろうか。
 僕とは話したくないんだろうか。

「……どうして、ホセさん」

 そう思うと、なんだか寂しくて。

『いやっ!』

 そう、拒絶したのは僕なのに。
 自分勝手な自分が嫌になる。だけどホセはつがいじゃない。だから。
 なんでホセはつがいじゃないんだろう。
 シズも、ネアも、フォルも。みんなつがいの匂いがするのに。
 どうして。

「僕の、つがい……どこ……」

 探さなければ、僕のつがいを。
 この子の為にも。
 この子を無事に、産み落とす為にも。
 理解しがたい焦燥は、変わらず僕を苛んでいる。
 だけどどうしてだろうか。
 今の僕は、以前・・ほど、強く、つがいを求めているわけではないような気がしていた。
 つがいを、そう求めているのは変わらないのにどうして。
 ずっと、つがいの匂いが僕と一緒にいてくれているからなのだろうか。
 わからない、わからない、けど。

「どうして……どこ……」

 知らず呟く。ぽつり、ぽつり。
 耳に届くのは絶え間ない水の流れる音と、パチパチと火がはぜる音。他には何もない。
 何も。衣擦れも、獣の息遣いも。
 否、遠く時折何かの動物の鳴くような声が聞こえる気がするから、森には何かがいるのだろう、ただそれらが遠いだけ。
 そんなもの全部になぜだかなんとなく安心して、程なくゆるり、まぶたが落ちていく。
 寄り添うようなホセのあたたかさに包まれて。ぼやけた僕の意識はそのまま、世界に溶けていった。
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