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38・森の中②

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 どれぐらい、歩き続けたことだろうか。
 まだ、陽が陰ってきたりしているような様子はないから、それでもそれほど長くはないと思う。
 とは言え、僕には途方もなく長い時間に感じられたけれど。
 さぁさぁと微かに水音が聞こえてきて、川か何かがどうやら近いようだと知った。
 ホセがどうやらそちらを目指しているらしいことも。
 確かに水は必要だろう。僕も、多分ホセだって。
 すると急に、喉の渇きを自覚した。

「ぁっ……、み、ず……」

 水が飲みたい。
 いつになく歩いている所為だろうか、なんだか嫌に喉が渇いている。
 砂漠よりもずっと、湿った気配のする森の中なのに。
 こんなにも喉の渇きを覚えたことはない。
 けれど、急ぐ元気なども流石になく、ゆっくりと、ただ着実に足を動かし続けた。
 段々と大きくなっていく水音に、川か、湖か。多分流れているような音がしているので川なのだろう、とにかく水場が近いことがわかる。
 道にすらなっていない場所を、ホセが導くまま、木々を避けながら歩いて、歩いて。
 目の前に遠く光が見えた。
 歩き始めてしばらくもしない頃から、空を木々が覆い尽くして、時折、陽は射すものの、多くは薄暗い所ばかりを歩いていたので、前方の光はことさら眩しく感じられた。
 ざざ、ざ、ホセが枝木をかき分ける音がして、僕はそうしてホセに導かれるまま、ホセに続いて、少しばかり歩きやすくなった所を通り、
 ようやく開けた視界の先、目の前にあったのは予想通りの川だった。
 それほど大きな川ではない。
 多分僕でも渡ろうと思えば渡れるだろうぐらい。
 深くも見えないその川を、しかし流れる水は澄んでいた。

「ぁっ……水っ……!」

 ホセが、川のほとりまでそのまま連れて行ってくれる。
 どうぞと言わんばかり、わふん、小さく頷くのを見て、僕はゆっくりと屈みこんだ。
 手に掬う。
 冷たい。だけど、気持ちいい。
 そのまま掬い上げて、ほんの少しだけ口に含んだ。
 長く、何も口に入れていなかった所為か、それとも余程のどが渇いていたからか、その水は初めて飲むのではないかというぐらいに美味しくて。

「おい、しい……」

 こくん、こくん、何度も、何度も、水を掬っては口に運ぶ。
 自分の気が済むまで、何度も。
 勿論、水ばかりそんなにもたくさん飲めるわけでもなく、満足して、ふぅと息を吐くまで、それほどの時間などかからない。
 気が付くと手も顔もびしゃびしゃに濡れてしまっていて。

「ぁっ……なに、か、拭く物……」

 あるわけもないのになんとなく、きょろと辺りを見回した。と、そこへ。

「はい、これ」

 当たり前のように差し出された布を受け取る。

「ありが……と、う……?」

 そこで気付いた。
 今、僕はいったい誰から布を差し出されたのか。
 僕の傍らには変わらず金の毛並みがある。
 何ならもふもふと僕を包み込んでいる。
 だから、ホセではない。でも、聞き覚えのある声。
 辺りに漂うのはホセから香る、つがいの匂い。

「……え?」

 たった今布を差し出してきたまま、そこにある手を見る。見慣れ立て、黒い袖口。
 ゆっくりとおそるおそる手の先を辿っていった。

「え?」

 目を見開く。

「ん? デュニナ?」

 不思議そうに首を傾げながら、視線の先にいたのはシズだった。
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