【完結】僕は番を探してる。〜放浪妊夫は愛に惑う〜

34・目覚め

　落ちる。
　それを理解した瞬間、僕は体を丸めていた。
　子供を、守らなければ、そう思って。だけど他になす術もなく、そのまま。
　最後に見たのはこちらへと手を伸ばすホセ。
　だけどその手は僕には届かなかった……――はずだった。
　そして。そしてその後、いったいどうなったのか。
　どこかに僕は落ちて。
　否、あれは落ちる、でよかったのか否か。わからない。わからないが、そこで僕の記憶は途絶えている。
　夢を、見ていたと思う。
　幸せな夢だ。
　幸せで満ち足りて。
　夢の中では番つがいがいた。
　僕の番つがい。
　ずっと探していた。
　会いたくて、会いたくて。
　なのに。
　どうしてだろう、ほんのついさっきまで、夢の中で一緒だったのに、目が覚めた僕はもう、番つがいの名前も声も顔も忘れてしまっている。
　覚えているのは匂いだけ。
　甘く心地よく、僕を安心させてくれる香り。
　今も、僕を守るように包み込んでくれている、番つがいの匂い。

「っ……――」

　呟いた。彼の名を。
　夢の中で確かに、彼を呼んだ。
　そのつもり、だった。



　ゆっくりと意識が浮上する。

「ぅっ……んんっ……」

　目を開けた。
　パチパチと瞬きする。
　なんだろうこれは。
　よくわからない。
　目は確かに開いている、はずだ。だけど、目の前にあるこれは……もふっとした……毛？
　金色の毛並み。

「え？」

　体を起こした。
　ガバッと、急激に。
　だけど流石に急に動いてはよくなかったらしく、すぐにくらっと倒れ込んでしまう。
　そんな僕を柔らかく受け止めてくれた何か。
　温かい。いい匂いの。

「え？」

　おそるおそるそちらを見る。振り返る。
　僕を、受け止めてくれていた、何かを見た。
　目に入るのはやはり金。金の……――それはどうやら、金の毛並みを持つ、とても大きな獣のようなのだった。