【完結】僕は番を探してる。〜放浪妊夫は愛に惑う〜

愛早さくら

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19・眠気

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 唇を湿らせて人心地つく。
 すると途端何故だか眠気が襲ってきたのは、自分で自覚していた以上に、疲労が溜まっていたということなのだろうか。

「どうした? 眠いのか? なら、そのまま眠るといい。否、寝所に移動した方がいいか。どれ、今一度失礼するぞ」

 僕の意識がぼんやりし始めたことにすぐに気付いたフォルが頷いたかと思うと、また、抗う間もなく抱え上げられる。

「ふぉ、フォル、様?!」

 驚いて声を上げた僕に、フォルは一度ぱちりと瞬きをして。

「様? 敬称など付けずともよいぞ」
「え、でも、あの……」

 大領主様、ではなかっただろうか。流石に呼び捨てになど出来ない。だから。

「えっと、では、あの……フォル、さん、で……」

 ホセやシズなど他の人達を呼んでいるのと同じ呼び方である。
 それでもフォルはまだ納得しかねるという風に僅か首を傾げていたが、

「ふむ。まぁよいか」

 一応はとそれで許してくれたようだった。
 なんとなくほっと息を吐く。が、しかしすぐに、今、僕が気になっているのは勿論、呼び方のことなどではないと思い出した。

「えっと、あの……それで、おろして頂ければ、と……」

 自分で歩ける、というより先程、むしろ歩かなさ過ぎているぐらいだという話をしたところだったと思うのだが。
 控えめに申し出ては見たのだが、勿論フォルはおろしてくれる様子などなく、それどころかすたすたと部屋の奥、どうやら続き間になっているらしい方へと向かっていく。

「ん? しかし眠気を感じているのだろう? このまま眠っても良いぞ。しっかり寝台へと運んでおくゆえ」

 まさかそんな幼子のようなことはできない。
 自然眉根を寄せてしまった僕をフォルは全く取り合わなかった。
 更に数歩進んだ先、続き間へと続く出入り口だと思われる部分に扉らしい扉はなかった。
 それはそもそも、この部屋自体にも当てはまる。ただ、おそらくは視線や日差しを避ける為だろう布が幾重にも出入り口にかかっているのみ。
 勿論、今、差し掛かっている続き間への出入り口も同じで。
 いつの間に控えていたのか、使用人らしき男性がさっと布をかき分けた。
 そのかき分けられた布をくぐって、僕を抱えたまま、フォルが迷いなく歩いていく。
 ゆらり、揺らされる振動に、くらと眠気が襲ってきた。
 それはきっと、フォルから漂う、番の香りの所為もあるだろう。
 まさか眠るわけにはいかない、思ったのだけれど。

「神人殿。気にしなくともよい。さぁ」

 フォルはそっと柔らかく、促すように声をかけてきて。僕はまるでそれに誘われるよう、どこかへと旅立ちそうになる意識を、つなぎとめることが出来なかったのだった。
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