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14・赤竜
しおりを挟む砂嵐はなかなか止まなかった。
否、数時間で止んではまた、ほどなくして襲ってくるのである。
それは昼も夜もなく、何度も、何度も。
何日過ぎたことだろう。
それさえ曖昧になるぐらい、ただ休んでいるだけでも疲れ始めた頃だった。
砂嵐と砂嵐の間、僕は用を足しにテントのようになっているその場所を出た。
流石に中では致せず、皆、このような隙にそういったことを済ませている。
お腹が大きく、動くのさえおぼつかない僕を気遣って、ホセが付き添おうとしてくれたが流石に断って一人、それ用と決めている場所まで急いだ。
滞りなく済ませて、すっきりして戻ろうとしたまさにその時、突然大きな影がかかり、僕は誘われるように空へと視線を向けていた。
同時にぶわり、これまで以上に濃く、番のいい匂いが辺りに立ち込める。
「え……?」
小さく漏れた疑問の声は、それが初めて見る影だったから。
何処までも大きく、日差しを遮るその姿。
「デュニナっ!」
「いったい何が、」
テントのような場所の中にいた者たちが、異変に気付いて慌てて走り出てくる。
ホセがすぐさま、僕の側へと寄り添った。
ぶわ、吹き付けた風圧によろけた体を支えられる。
「おっと」
「あ、すみません」
「いや、気にしなくていい」
転ばなくてよかった。
ホセからも勿論、変わらずいい匂いがしている。
僕は混乱していた。
いったいどうなっているのだろう。
視線の先、いい匂いの下、物凄く大きな影の正体は翼を持つ巨大な生物……――竜だ。
影になっていて、すぐにはわからなかったけれど、どうやらよく見るとその体躯は鮮やかな赤い色。
「……――赤竜」
ぽそとホセが呟く。
そのままの名称。
「赤竜……これが……」
竜だなんて、存在していたのか。
僕はただ驚くばかり。
そんな僕達の視界の先で、ゆっくりと地面に降り立った赤竜が、何故だかぶわと、輪郭を歪ませたかと思うと、次に瞬きした時には、そこにいたのは竜ではなかった。
とは言え、漂う匂いは変わらない。
さらと赤い髪が風になびいた。
目の前にいる誰かが、にこと微笑むのがわかる。
その人物がそのまんまごく当たり前の顔をして口を開いた。
「やぁ、ずいぶん遅かったから迎えに来たよ。――……神人殿」
赤い目を柔く撓ませて。そう告げてきた人物は、とても見目の良い少年の姿をしていた。
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