上 下
11 / 58

11・旅路③

しおりを挟む

 暑い。
 それはそうだろう。だってこんなにも陽射しが強い。
 ティリチュアの民だろうがきっと同じだ、否、体が大きい分、他の者よりもより晒されていると言ってもいいのではないかと思う、それぐらいには照り付ける太陽はあまりに暴力的だった。
 だが、

「なら、」
「ですが、私はティリチュアの民です」

 何かを、続けようとした僕の言葉は遮られ、ぽつん、僕は今自分が何を言おうとしていたのかを見失った。
 なら、そこまで僕ばかりを気遣ってくれなくてもいい、もっとご自身に配慮なさるべきだ、だとかそういうことを告げたかったのだとは思うのだけれど。
 とは言え、今こうして影を作ってもらえているからこそ、僕がそれほど不調を抱えていないのも事実。
 そうでもなければきっと僕は早々に、この陽射しにやられていたことだろう。
 それはこんなにも体に布を巻きつけられ、少しでも陽射しから逃れられるようにと配慮されていても同じだ。
 なにせ熱いことに変わりはない。
 砂漠は静かだ。
 何の音もしない。
 木々が遠いからこそ、風が葉を揺らす音もせず、僕が散以外に人影どころか、動く何かの気配もなく、耳に届くのはただ静寂と、僕達の身に纏う衣服やそれぞれが抱えた荷物を砂が打つ微かな囁きだけ。
 見渡す限りの砂の海、それは何処までも穏やかなものなどではなく、静寂こそが脅威であるのだと、そう告げてでもいるかのようだった。
 ネアの言葉は、それほど大きくはなかった。勿論、僕の声も。
 だからきっとここにいる皆が耳にしたことだろう。
 誰も何も言わない。
 おそらくは言う必要がない。
 ネアが今から話すことは多分、僕以外の皆が知っているだろうことだった。

「ティリチュアは魔力を持っています。その巨体に相応しい大量の魔力が、常にティリチュアの体内を巡っている。我々は暑さを感じないわけではありません。現に今も暑い。こんな陽射しは暴力だ。ですが、そのような暑さでは我々は害されない。魔力が我々を整えます。それは体温や、体の不調を含めてです。ですから、ほら」

 おもむろに伸ばされた大きな手が、幾重にも重なった布をかき分け、僕の顔に触れた。
 その冷たさに思わずびくりと体が震える。

「貴方をこうして冷やすこともできる。貴方の居る私の影の中は、他よりきっと涼しいはずです」

 手はすぐに僕から放され、僕はなんとなくそれを目で追ってしまった。
 優しい声音にネアを見上げると、彼は大変に柔らかな顔で僕を見ていて、僕はなんだか居た堪れなくなる。
 快適だとはわかっていた。暑いとは感じていても、それは体調を崩すほどではない。
 まさか影を作ってもらっているのみならず、空気ごと冷やしてもらえていただなんて。
 なんとなく逸らしてしまった視線の先、ホセはネアの告げた言葉を肯定するかのように微かに頷いていた。

「そう、です、か……問題ないようでしたら、よかったです……」

 気遣って下さってありがとうございます。
 小さな声で何とかそう、礼を述べた。

「いえ、貴方を不調に陥らせていないようでしたらよかった」

 気にしなくていい。
 そう言わんばかりに返ってきたネアの言葉は、何処までも誠実さに満ちていた。
 砂漠を歩く。否、僕はただ運ばれていく。
 それは僕を、まるで全く知らない世界へ、いざなってでもいるかのようでもあった。
 否、僕の感じたそんな感覚はあながち間違いでもなく、そして。
 そんな風、砂漠での旅は数日、ただゆっくりと過ぎていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

ああ、異世界転生なんて碌なもんじゃない

深海めだか
BL
執着美形王子×転生平凡 いきなり異世界に飛ばされて一生懸命働いてたのに顔のいい男のせいで台無しにされる話。安定で主人公が可哀想です。 ⚠︎以下注意⚠︎ 結腸責め/男性妊娠可能な世界線/無理やり表現

助けた竜がお礼に来ました

コプラ
BL
☆6話完結済み☆ 前世の記憶がある僕が、ある日弱った子供のぽっちゃり竜を拾って、かくまった。元気になった竜とはお別れしたけれど、僕のピンチに現れて助けてくれた美丈夫は、僕のかわいい竜さんだって言い張るんだ。それで僕を番だって言うんだけど、番ってあのつがい?マッチョな世界で野郎たちに狙われて男が苦手な無自覚美人と希少種の竜人との異種間恋愛。 #ほのぼのしてる話のはず  ☆BLランキング、ホットランキング入り本当に嬉しいです♡読者の皆さんがこの作品で楽しんで頂けたのかなととても励みになりました♪

異世界で大切なモノを見つけました【完結】

Toys
BL
突然異世界へ召喚されてしまった少年ソウ お世話係として来たのは同じ身長くらいの中性的な少年だった だがこの少年少しどころか物凄く規格外の人物で!? 召喚されてしまった俺、望月爽は耳に尻尾のある奴らに監禁されてしまった! なんでも、もうすぐ復活する魔王的な奴を退治して欲しいらしい。 しかしだ…一緒に退治するメンバーの力量じゃ退治できる見込みがないらしい。 ………逃げよう。 そうしよう。死にたくねぇもん。 爽が召喚された事によって運命の歯車が動き出す

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

オオカミの集落に迷いこみました!逃がしてほしければ、集落の皆さんと子作りしないといけません!【R18】【オメガバース】

天災
BL
 オオカミの集落に迷いこんだΩウサギの僕は、オオカミらに囲まれ、そして拘束された。  命が助かりたいのならば、集落のオオカミと子作りをしなければなりません!

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

俺が勝手に好きな幼なじみに好きって十回言うゲームやらされて抱えてたクソでか感情が暴発した挙げ句、十一回目の好きが不発したクソな件。

かたらぎヨシノリ
BL
幼なじみにクソでか感情を抱く三人のアオハル劇場。 ──────────────── ──────────────── 幼なじみ、美形×平凡、年上×年下、兄の親友×弟←兄、近親相姦、創作BL、オリジナルBL、複数攻3P、三角関係、愛撫 ※以上の要素と軽度の性描写があります。 受 門脇かのん。もうすぐ16歳。高校生。黒髪平凡顔。ちびなのが気になる。短気で口悪い。最近情緒が乱高下気味ですぐ泣く。兄の親友の三好礼二に激重感情拗らせ10年。 攻 三好礼二。17歳。高校生。かのん弄りたのしい俺様王様三好様。顔がいい。目が死んでる。幼なじみ、しのぶの親友。 門脇しのぶ。17歳。高校生。かのん兄。チャラいイケメン。ブラコン。三好の親友。

処理中です...