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11・旅路③

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 暑い。
 それはそうだろう。だってこんなにも陽射しが強い。
 ティリチュアの民だろうがきっと同じだ、否、体が大きい分、他の者よりもより晒されていると言ってもいいのではないかと思う、それぐらいには照り付ける太陽はあまりに暴力的だった。
 だが、

「なら、」
「ですが、私はティリチュアの民です」

 何かを、続けようとした僕の言葉は遮られ、ぽつん、僕は今自分が何を言おうとしていたのかを見失った。
 なら、そこまで僕ばかりを気遣ってくれなくてもいい、もっとご自身に配慮なさるべきだ、だとかそういうことを告げたかったのだとは思うのだけれど。
 とは言え、今こうして影を作ってもらえているからこそ、僕がそれほど不調を抱えていないのも事実。
 そうでもなければきっと僕は早々に、この陽射しにやられていたことだろう。
 それはこんなにも体に布を巻きつけられ、少しでも陽射しから逃れられるようにと配慮されていても同じだ。
 なにせ熱いことに変わりはない。
 砂漠は静かだ。
 何の音もしない。
 木々が遠いからこそ、風が葉を揺らす音もせず、僕が散以外に人影どころか、動く何かの気配もなく、耳に届くのはただ静寂と、僕達の身に纏う衣服やそれぞれが抱えた荷物を砂が打つ微かな囁きだけ。
 見渡す限りの砂の海、それは何処までも穏やかなものなどではなく、静寂こそが脅威であるのだと、そう告げてでもいるかのようだった。
 ネアの言葉は、それほど大きくはなかった。勿論、僕の声も。
 だからきっとここにいる皆が耳にしたことだろう。
 誰も何も言わない。
 おそらくは言う必要がない。
 ネアが今から話すことは多分、僕以外の皆が知っているだろうことだった。

「ティリチュアは魔力を持っています。その巨体に相応しい大量の魔力が、常にティリチュアの体内を巡っている。我々は暑さを感じないわけではありません。現に今も暑い。こんな陽射しは暴力だ。ですが、そのような暑さでは我々は害されない。魔力が我々を整えます。それは体温や、体の不調を含めてです。ですから、ほら」

 おもむろに伸ばされた大きな手が、幾重にも重なった布をかき分け、僕の顔に触れた。
 その冷たさに思わずびくりと体が震える。

「貴方をこうして冷やすこともできる。貴方の居る私の影の中は、他よりきっと涼しいはずです」

 手はすぐに僕から放され、僕はなんとなくそれを目で追ってしまった。
 優しい声音にネアを見上げると、彼は大変に柔らかな顔で僕を見ていて、僕はなんだか居た堪れなくなる。
 快適だとはわかっていた。暑いとは感じていても、それは体調を崩すほどではない。
 まさか影を作ってもらっているのみならず、空気ごと冷やしてもらえていただなんて。
 なんとなく逸らしてしまった視線の先、ホセはネアの告げた言葉を肯定するかのように微かに頷いていた。

「そう、です、か……問題ないようでしたら、よかったです……」

 気遣って下さってありがとうございます。
 小さな声で何とかそう、礼を述べた。

「いえ、貴方を不調に陥らせていないようでしたらよかった」

 気にしなくていい。
 そう言わんばかりに返ってきたネアの言葉は、何処までも誠実さに満ちていた。
 砂漠を歩く。否、僕はただ運ばれていく。
 それは僕を、まるで全く知らない世界へ、いざなってでもいるかのようでもあった。
 否、僕の感じたそんな感覚はあながち間違いでもなく、そして。
 そんな風、砂漠での旅は数日、ただゆっくりと過ぎていった。
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