8 / 58
8・結論
しおりを挟むしかしホセがはっきりそう拒絶しても、ネアは一切引く様子を見せない。
「それこそ、一刻も早くここから移動するべきでしょう。こちらは辺境の小さな集落です。このような場所ではいろいろと不足しすぎて、御子を産み落とすことなど出来るとは思えない」
身重だからこそなのだと、ネアは重ねて告げてきた。
なんとはなく、周囲を見回す。
確かに此処は小さな集落なのだ。
いくら僕が今身を寄せている、ホセの住まいが診療所であるとは言え、何か特別な設備があるわけでもない。
準備が色々と足りていないことは間違いがなかった。
それでも。
陽射しが肌を焼く。
眩しい。
砂漠ではこの陽射しがもっと強い。
それを僕はすでに知っていた。
とてもあの砂漠を超えられるようには思えないが、しかしこの様子ではきっと僕の意見など何も通らず、それどころか聞かれることもなく、僕のこれからが決まってしまうのかもしれない。
ネアが慇懃に言い募る。
「私がお連れ致します。幸い私はティリチュアの民。きっとお役に立ちましょう」
その大きな体が、何か助けになるとでも言うのだろうか。
僕には全く予想もつかなかったけれど、ホセの頑なな態度は、それで少し緩和されたようだった。
それはネアが大領主様とやらの近衛で信用に足るというのもあるのかもしれない。
それともネアがネアだからこそなのか。
辺りには番の、とてもいい匂いが満ちている。
この匂いを嗅いでいるだけで、まるで心配事など、全てどうでもよくなってしまうかのようだった。
ホセは物凄く考えていた。
考えて考えて、やがて小さく首肯する。
ホセは僕に、意見など訊ねようとはしなかった。
「……わかった。それほどまでに言うのなら、俺も共に行こう。ここではいろいろ不足しているのは間違いないし、しかしデュニナの今の状態を、一番わかっているのはきっと俺で、一番に支えられるのもきっと俺だ」
ホセの言葉で、僕はどうやらホセと共に、ネアに連れられ、砂漠を渡ることとなるのだと理解する。
辺りは騒然としていた。
しかし決して引き留めるような気配はない。
それも当たり前のことなのだろう、何せ僕はただ数日前から、ホセの診療所に身を寄せているだけのものにすぎないのだから。
神人。
それがいったい何だというのか。
誰からの説明もないまま、俺はそのまま早急にホセの診療所まで戻って、荷物をまとめることになったのだった。
11
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。


末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです

逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる