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7・迎え
しおりを挟む巨大な人影はどうやら、僕より頭一つ分以上大きいホセの、実に二倍ほどは大きいようだった。
まるで巨人だ。
そう思った僕の思考を読んだのでもないだろうに、ホセが苦く口を開く。
「まさかティリチュアをこんな所で見るなんて」
「ティリチュア?」
先程もホセが呟いていた言葉。
だけど、今はもうそんな単語一つで、頭が痛んだりなんてしない。
僕の疑問に応えるようにホセが小さく頷いた。
「ティリチュアは彼のような巨人族のことを指すんだ。だが彼はこの大きさだと、ティリチュアの中では随分小さい方なのだと思う」
「彼で小さい方? そんな……」
なら、一般的な巨人族というのは、いったいどれほど大きいものなのだろう。
正しく巨人、であっているらしい。
大きな人影もまた、傍らで小さく頷く。
「神人様。お迎えに上がりました。私は大領主様の近衛をしております、ザルピネアと申します。どうぞネアとお呼び下さい。そこの者の言うとおり、ティリチュアの民であり、同時に常人の血も引いております。そのため、他よりは少々小さめではありますが、その分魔力が豊富で、それゆえ多少であれば自身の大きさを操作することが出来るのです。さて、このように」
かむびと。
またしても僕をそう称して、僕に向け、恭しく跪いた、ネアと名乗ったそのティリチュアは、彼自身の告げた通り、見る見るうちに縮んで、見上げるほど大きいのは変わらずとも、ホセよりも頭二つ分ほど大きい程度、人間として、あり得なくもない程度の大きさとなって見せた。
なるほど、だから本来ならばもっと大きいはずのティリチュアでありながら、先程の大きさであったということなのだろう。
自分の大きさが変えられるとは。魔力が豊富であればそのようなこともできるのか。
感心しながらも僕は戸惑う。
近衛と言っただろうか。
40か、50か。それぐらいの年齢に見える壮年の男だ。
顔にしわが目立ち始めてはいるようだが、小麦色の良く焼けた肌には張りがあり、緑がかった、短い茶色の髪も勇ましい。吸い込まれそうな真っ黒な目をしていた。
ホセの瞳はどうやら緑がかった青であるようだが、その点、彼の目は混じりけのない黒曜。
精悍な大変に男らしく逞しい風貌。
パツパツに張った筋肉の盛り上がりに、生命力の強さを感じる。
そんな彼は今、迎えに来たと言っていただろうか。
かむびとを。つまり、僕を?
「迎え、ですか……?」
ネアは頷いた。
「はい。本来なら神人様は、このような場所におられるべきお方ではございません。せめてと大領主様は、何の不自由もなく、神人様に過ごして頂きたい所存です」
それゆえに自分が使わされたのだとネアが言う。
傍らでずっと、寄り添うように僕を支えてくれていたホセが顔をしかめた。
「了承できない。それは医療師としてだ。大領主様の所ともなると、何日もかけて砂漠を超えることとなる。デュニナは身重だ。そのような身で砂漠を渡らせるなど……」
正気の沙汰ではない。
ホセは僕の身を案じてくれているらしい。
思わず上を見上げる。
照り付ける太陽は痛いほど。この下を、砂漠を行く?
ホセの言うとおり、正気の沙汰ではない。そう思った。
暑すぎる日差しと集落の外に広がる砂漠。
番を。探さなければならない。そんな焦燥に駆られながらも、実際には探しにいけていない、僕がホセの元から離れられない理由の一つだった。
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