上 下
159 / 242

156・4人での夕食と困ったお願い

しおりを挟む

 夕食は予め聞いていた通り、セディとイーニアと一緒で、しかしサフィルは相変わらず機嫌が悪そうなセディに、どうすればいいのかと戸惑った。
 イーニアは相変わらずサフィルを気に入ってくれているようで、あからさまなほどサフィルにばかり話しかける。
 リシェもセディもほとんど無視しているような勢いだ。
 サフィルは余計にどうすればいいのかわからない。
 困り切って視線でリシェに助けを求めると、リシェも困ったように肩を竦めていて、どうにもならないようだと諦めた。
 セディの機嫌が悪いのはこんな風に、イーニアがサフィルばかり構うからなのだろう。
 リシェから一昨日に機嫌が悪かったことも、別にサフィルを気に入っていないだとかではないから気にしないようにと言付かっていたのだが、きっとこの夜も理由は同じなのだろう。
 つまり、簡単に言うならばただの嫉妬で、余程イーニアが自分以外と仲良くしているのが面白くないらしい。
 大した独占欲だなと呆れるが、一昨日離した限りではイーニアも満更ではないようなので、これはこれで良いのだろう。
 仲がいいのはいいこと、なのだと思う外ない。
 そんな風に若干の気まずさを感じながら夕食を済ませ、終わりがけ、イーニアがこそと頼んできたた言葉に頭を抱えてしまう。
 何故ならそれは、

「ねぇ、サフィルくん、いつでもいいの。良ければまた治癒魔術をかけて頂戴な。出来れば滞在中に。私、もう少しあなたと話したいわ。でも今の状態じゃ難しいでしょう? ね?」

 などと言うもので、事情を鑑みると無下にも断れず、だが、それこそセディが面白く思っていないところの一つだろうこともわかっていて、どうしても返事を躊躇った。

「えっと……あの、それは……僕は、全然、構わないんですけど……」

 そうしたらイーニアは、煮え切らないサフィルの態度に気を悪くするでもなく、まるで少女のように軽やかに笑い、

「うふふ。わかっているわ。あまり深刻に捕らえないで。別に毎日お願いしたいというわけでもないのよ。だから、ね? 考えていて」

 などと不確定な約束とし、サフィルに頷かせてしまったのだった。
 後ほど部屋に戻ってからリシェにそのことを訊ねられ、特に隠すことでもないのでそのまま伝えれば、リシェも困った顔をして、

「えっと、それは……父に一度相談してからで構わない、かな……聞いておくから……」

 と申し出てくれたのでありがたく頷いた。
 サフィルとしても、セディの考えを無視するわけにはいかないと、そう思っていたからだった。
 あの様子ではきっとイーニアはほとんど何も気にしないのだろうけれども、サフィルは別にセディとイーニアの仲に亀裂を生じさせたいわけではないのだから。
 イーニアもセディを結局憎からず思っているのなら、むしろ窘めるべきかとさえ考えた。
 イーニアも今更、セディから逃げたいだとかそんなことを望んでいるわけではないように見えた為である……――自分が同じように、今更、リシェの傍を離れることなんて考えられなくなっているないように。
 それにしても、伯父の慧眼には恐れ入る。
 マチェアデュレここへ嫁いでくる後押しをしてくれたことを思い出し、そうしてまたリシェと一緒に寝台に横になって。
 やっぱり、昨夜と同じように妙にドキドキして、だけど。
 慣れない街歩き、からの気を使う夕食は、サフィルが思っていた以上に自身を疲弊させていたようで。結局、ほどなくしてぐっすりと、眠りに就くことが出来たのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

結婚式の晩、「すまないが君を愛することはできない」と旦那様は言った。

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「俺には愛する人がいるんだ。両親がどうしてもというので仕方なく君と結婚したが、君を愛することはできないし、床を交わす気にもなれない。どうか了承してほしい」 結婚式の晩、新妻クロエが夫ロバートから要求されたのは、お飾りの妻になることだった。 「君さえ黙っていれば、なにもかも丸くおさまる」と諭されて、クロエはそれを受け入れる。そして――

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

【完結】酔った勢いで子供が出来た?!しかも相手は嫌いなアイツ?!

愛早さくら
BL
酔って記憶ぶっ飛ばして朝起きたら一夜の過ちどころか妊娠までしていた。 は?!!?なんで?!!?!って言うか、相手って……恐る恐る隣を見ると嫌っていたはずの相手。 えー……なんで…………冷や汗ダラダラ 焦るリティは、しかしだからと言ってお腹にいる子供をなかったことには出来なかった。 みたいなところから始まる、嫌い合ってたはずなのに本当は……?! という感じの割とよくあるBL話を、自分なりに書いてみたいと思います。 ・いつも通りの世界のお話ではありますが、今度は一応血縁ではありません。 (だけど舞台はナウラティス。) ・相変わらず貴族とかそういう。(でも流石に王族ではない。) ・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。 ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。 ・頭に☆があるお話は残酷な描写、とまではいかずとも、たとえ多少であっても流血表現などがあります。 ・言い訳というか解説というかは近況ボードの「突発短編2」のコメント欄からどうぞ。

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

処理中です...