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104・睡眠不足

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 夜はそのまま案の定、よく眠れないまま朝を迎えた。
 離宮内の温度は適温に保たれていて、そうでなくともマチェアデュレは一年を通して、比較的過ごしやすい気温のままあまり変化がない国である。
 だから、暑いだとか寒いだとかいうようなことはなかった。
 ない、はずだった。
 なのにどうしてあんなにも、昨夜は寒く感じたのだろう。
 わからなくなりながら、それでもうつらうつらと浅い眠りを繰り返し、ようやくしっかりと寝入ることが出来たのは空が白み始めた頃。
 薄くあけられたままの天蓋の隙間から、なんとなく夢うつつで、青白く朝の近づく窓の外を見ていた気がする。
 目覚めた時には当然、すっきりとと言う風にはいかなかった。
 どことなく体が重怠いのは、睡眠が足りていない所為なのだろう。
 勿論、旅の疲れもあるかもしれず、むしろ侍女たちはそちらの方を気にしてか、朝だと起こしに来た時間は王宮で過ごす時のそれより、随分と遅い頃合いだった。
 いつもならもう朝食を食べ始めているような時間。

(もしかして寝坊しちゃったかな……)

 ぼんやりと目を擦るサフィルに、侍女たちは何処か気遣わし気な眼差しを注いで、

「聖王妃陛下。もしまだお疲れでしたら、もう少しお休みになりますか?」

 そんなことまで申し出てくれる。
 一瞬迷って、だけどサフィルは首を横に振った。

「ううん、起きるよ。いつもより遅い時間でしょう? 急がないと……イーニア様がいつ頃お手すきになるかもわからないしね」

 イーニア自身、何時頃になるだとかはわからないと言っていた。
 きっとサフィルよりずっと、起きるのに易くはない状況なのだろう。
 臥せったままあまり動けない状況だなんて、いったいどれぐらい何をどうなさったと言うのか。サフィルには実際の所、よくわからないままだった。
 勿論、イーニアがはっきりとは告げなかった理由は察している。
 つまりは閨ごとが関わっているのだろう。
 セディは見るからに老齢だったというのに元気なことだ。
 しかしサフィルは正しくあの初夜の一夜しか経験がなく、しかも体の不調はさっさと治癒魔術で治してしまったという経緯があった。
 それでも、もしあの朝、治癒魔術が使えなかったとしたらと、想像するだに恐ろしい。
 そう思うと急にイーニアが心配になってきて、当然、二度寝を、だなんて考えられるはずがない。
 侍女たちはそんなサフィルの心情までもを慮ったわけではないのだろうけれど、ただ素直に頷いて、

「かしこまりました。ではすぐにお支度をお手伝いいたしますね」

 言いながら今日身に着ける予定なのだろう衣装を差し出してきた。
 それを受け取りながらサフィルも首肯した。

「うん、頼むよ」

 手に取ってみると、背中側にひもがついていて、今日の衣装はどうやら仕上げに侍女たちの補助が必要そうだ。

(あれ? いつもより少し装飾が多い、かな?)

 思いながらもサフィルは抗わず、大人しく着替え始めたのだった。
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